ALL YOURSとTUNAGの取り組みから考える、サービスデザインに必要な13のステップ

ALL YOURSとTUNAGの取り組みから考える、サービスデザインに必要な13のステップ
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2020/09/17 08:00

 ここ数年、耳にする機会も増えた「サービスデザイン」という言葉。本連載ではその基本について、フェンリルでサービスデザインを担うSD部が解説します。第2回は「サービスデザインのプロセス」についてです。

 初回となる前回は、サービスデザイン思考の6原則に触れ、サービスデザインの概念的理解についてお話しました。

 サービスデザインは、利用者の体験価値を高めることはもちろん、提供者の価値も追求し、人間中心であらゆるステークホルダーの相互関係性を維持しながら連続的な価値を提供するものです。この変化の激しい時代においては、ヒット商品を連発したり、従来通りの広告キャンペーンによって継続的な成功を収めることはとても困難です。

 持続的な成長を見こむには、このサービスデザインの考えかたが非常に有効だと考えられています。経済産業省も、サービスデザインに注力しているコンセントさんに委託し、サービスデザインの手引書および調査研究報告書をまとめています。興味のある方はぜひご一読ください。

 サービス提供者と顧客、さらにその周りを取り巻くステークホルダーは価値の共創者であり、相互に依存的な関係にあり、それぞれの継続的なインタラクションによって新しい価値を生み出します。それにより、変化が早く不確実ないまの時代に対応できる組織や事業を作ることができるのです。

 ただし、そこに至るまでのプロセスはもちろん複雑で、小手先の技術や付け焼き刃でできるようなものではなく、経営課題として捉え、組織全体でコミットしなければなりません。

 私たちのチームもサービスデザインを支援していますが、あくまでサービスデザインを実行するのはサービスの提供者であり、その実行を支援するというスタンスを心がけています。もちろん、ステークホルダーとして、サービスを共創する一員として。

簡単な取材も敢行 ふたつのサービスデザイン事例

 今回は、ALL YOURSとTUNAGというふたつのサービスに登場していただき、事例と照らし合わせながらサービスデザインのプロセスをご紹介します。

 というのも、サービスデザインの事例とされるものは、ビジネス的な成果が少しわかりにくかったり、海外の非営利団体のものが多かったりと、すぐに試すことができる取り組みが少ないように思います。サービスが存在するからこそ、それが社会貢献につながったり、取り組み自体への称賛があったりするのですが、ひとつのビジネスとして参考にするのは難しいと感じている方もいるのではないでしょうか。

 そこで、サービスデザイン思考の原則に当てはまっており、ユーザー価値とビジネス価値の両方を達成している企業を探したところ出会ったのが上記のふたつです。

 両社ともフェンリルのクライアントや関係会社ではありません。今回は純粋に事例として紹介させていただくべくコンタクトを取り、Twitterで簡単な取材をさせていただきました。

 ALL YOURSは株式会社オールユアーズが運営するアパレルブランドで、TUNAGは株式会社スタメンが運営する企業向けのクラウドサービスです。これらのサービスは、ユーザー価値×ビジネス価値の両立、サービス品質×顧客とのエンゲージメントの両立を果たしているサービスだと思います。この2社を事例として、サービスデザインのプロセスを紹介していきます。

ALL YOURSのサービスデザイン

ALL YOURSは、D2C(Direct to Consumer)のアパレルブランドで、従来のファッション的な(見た目とトレンドを重視した)衣服にストレスを感じている人に向けて、シンプルで着回しの利くトレンドと無関係の実用的なアイテムを提案しています。“着たくないのに着てしまうTシャツ”(通称「着た着て」Tシャツ)など、オリジナリティがあり、かつ品質の高いアイテムは高い人気を誇っています。

彼らが実践している取り組みを下記のようにいくつかピックアップすることでも、紛れもなくサービスデザインを実現している企業だとおわかりいただけるのではないでしょうか。

  • テキスタイルメーカーと共同でターゲットユーザーのニーズに合致した実用的で着回しの効く服を開発。
  • クラウドファンディングでオーダーを取り、顧客ニーズを検証しながら商品を開発する。(現在は、クラウドファンディングがメインの販路ではありません)
  • 販売後もリペアやシルエット変更などのカスタマイズ対応などのサービスを展開し、ひとつの製品を長く着てもらうことを志向。
  • アパレルにもアジャイル開発をということで短い期間での反復的な改善プロセスにより、常に品質の改善を行っている。
  • クラウドファンディング、実店舗、ECサイト、Zoomを利用したオンライン接客など複数のタッチポイントを用意し、サービスの価値に触れやすい状態を作っている。
  • 顧客を共犯者と呼び、同じ価値観を共有する共創相手であることをキャッチーな言葉で表現している。
  • ビジネス的にも広告費ゼロで200%を超える成長を達成、顧客エンゲージメントを高め、クチコミによって事業成長につなげている。

また特筆すべきは同社のロゴ。同社が顧客中心であり続ける姿勢を表現したもので、常に「U」が中心になるようにデザインされています。

TUNAG のサービスデザイン

TUNAGは、企業に対する従業員のエンゲージメントを高めるためのクラウドサービスです。社内制度の利用状況の可視化や改善や新設を簡単にできるようにするなど、社内制度の運用を支援します。開発したのは、名古屋を拠点にしている株式会社スタメン。このサービスもまた、サービスデザインの考えかたによって運営されています。

事業を成功に導くには、人と組織が圧倒的に重要であり、人と組織を磨くために何が必要かを突き詰めた結果、このエンゲージメントという概念にたどり着いたとのことです。従業員と企業という関係性は、ユーザーとサービス提供者の関係性と同じで、価値を共創する相互依存関係にあります。そのため、企業にツールを導入し、あとは自由に使ってくださいというだけではそこに価値は生まれません。

そのため、TUNAGでは、エンゲージメントについての知識を持ったカスタマーサクセス部門がユーザー企業のTUNAG担当者に伴走し、運営をサポート。組織の課題抽出から施策設計の提案や利用データをもとに運用改善を行い、定期的なフォローアップをすることで、利用価値を高め、エンゲージメント向上を支援しています。

ユーザー企業を複数社集めて、人事担当者同士の交流やノウハウ共有をしたり、各社の取り組みを表彰するアワードを開催するなど、TUNAG自身もサービスとユーザー企業とのエンゲージメントを高めています。企業に対する従業員のエンゲージメントを高めるために、まずはTUNAG自体に対するユーザー企業のエンゲージメントを向上させるという構図は、まさに人間中心かつ包括的であり、エンドレスのフィードバックループであると言えるのではないでしょうか。

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