はじめまして。フェンリル株式会社SD部と申します。フェンリルはデザインと技術を強みにしたアプリ開発会社で、なかでもSD部という部署では、おもにサービスデザインの視点からサービス戦略の立案、既存サービスのUX改善、ブランディング、デジタルマーケティングなど幅広く行っています。
この連載では、最近あちらこちらで耳にするようになった「サービスデザイン」の手法を噛み砕いて解説していきます。全4回を予定していますので、しばらくお付き合いいただければと思います。
- 第1回:サービスデザインって何だろう(今回)
- 第2回:事例で理解するサービスデザインのプロセス
- 第3回:サービスの価値を高める要素とは
- 第4回:私たちは皆サービスデザイナーだ
なお本連載で登場する「サービス」は、有形か無形かは問わず、その商品の利用や消費を中心に提供される、一連のコミュニケーションを総称したものとして捉えています。
UXデザインとサービスデザインの関係
私たちが、プロダクトやサービスをデザインするとき、常に意識しなければならないのがUX(ユーザー体験)についてです。
UXとは、ユーザーがサービスとのさまざまな接点において獲得した感情や経験のこと。UXはサービスを実際に利用しているときだけでなく、たとえばサービスを認知したときに、「お、このアプリ良さそう」と感じることも、サービスを利用し続けることで生まれる、愛着や共感といった感情をも含むものです。
ユーザーとサービス提供者の一連のコミュニケーションやインタラクションから生まれる一連の体験を通して、サービスに対するユーザーのエンゲージメントを高めるというのが理想的なUXのストーリーです。
UXデザインとは、このようなストーリーの実現に向けて、ユーザーとのタッチポイントをデザインすることです。人間中心設計などのUXデザインのプロセスを理解されている方の場合は、これから説明するサービスデザインとUXデザインの大枠は、同じようなものだと思っていただいてもよいと思います。
UXデザインという言葉自体には明確な定義がありません。そのため、デザイナーによってその理解にばらつきがあります。とくに、UI/UXのように、UIとUXが並んで表記されることが多いため、UIとUXが並列の概念のように捉えられがち。そのため、UXデザインとはUIデザインとニアリーイコールである、というイメージを持たれてしまうこともあります。
そのため、「ユーザー視点でUIデザインをすること=UXデザインである」と認識してしまっているデザイナーも一定数いるように思います。もちろん、良いUIによって良いUXを提供するということに間違いはありませんが、良いUXを提供するうえで、UIがすべてではない、ということも理解しておかなければなりません。
UXの意味するところがわかれば、UXデザインだけでなく、これから説明するサービスデザインについての理解も進むと思いますので、不安な方はUXについてまとめられた文書『ユーザーエクスペリエンス(UX)白書』を読んでみることをオススメします。
あくまで定義の範囲の問題かもしれませんが、サービスデザインの場合、事業性や提供者側の仕組みなどにも重きを置き、より事業者の視点からサービス全体を見渡します。また、ユーザーの体験だけでなく、提供者やそのほかのステークホルダーの体験も重視しています。
サービスの提供を通じて、スタッフの自己実現を果たすことができるのであれば、UXに対して良い影響を与えるのは間違いありません。というわけで、結局は、良いUXのためにデザインする、ということに帰結するので、サービスデザインもUXデザインの一部と言ってもいいのかもしれません。
つまり、あらためてサービスデザインを定義するとすれば、「ユーザーの体験価値を最大化するために、商品や組織、業務、システムを産み出し、改善していく一連の活動」といったところでしょうか。