全社員が「デザイン」行為を CDOの意義と役割と取り組みについて、GMOペパボの小久保さんが語る

全社員が「デザイン」行為を CDOの意義と役割と取り組みについて、GMOペパボの小久保さんが語る
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2022/01/12 08:00

 CDOやCXOとして活躍するクリエイターに日々の取り組みや課題などについて取材することで、クリエイティブのこれからを考える本コーナー。第2回は、GMOペパボのCDO(Chief Design Officer)小久保浩大郎さんにお話を伺いました。(撮影時のみ、マスクを外しています)

問題解決だけではなく「問題定義」を CDOの役割とは

――まずは、2020年4月にCDOに就任された経緯から教えていただけますか?

GMOペパボという会社は創業のころから知っていました。ずっとおもしろい会社だなと思いながらも個人的な縁がなかったのですが、前職にいるとき、20年来の友人である取締役のCTO・栗林から近況を聞かせてもらったことが最初のきっかけです。

話を聞いてみると、個々のデザイナーはみんな良いものを持っているし、力もあるし、精力的に仕事をしてくれているけれど、それを全体としてまとめ、組織のパワーに変えてリードしていく部分ができていないから、そこを担う人を探していると。ちょうどそのとき、キャリアの中で挑戦したいことがチームでデザインの成果を出すことだったため、まさに自分が取り組みたい課題とマッチしたんです。

また、GMOペパボが提供しているさまざまなサービスをとおしてどういった価値を社会に提供しようとしてるのかを改めて聞き、それを理解し、共感したときに、そこで自分がデザインリードのような立ち位置で価値を作ることができたら、それは非常に意義のあることだと感じることができた。それがGMOペパボへの入社を決めた背景です。2019年1月のことでした。

GMOペパボは事業部制のためデザイナーは各事業部に所属しているのですが、最初に僕は、社内の横断組織であるデザイン戦略チームに入り、数ヵ月後にマネージャーに。その体制でおよそ1年間、いろいろなメンバーとコミュニケーションをとったり、社内全体のデザイン方針決めなどに携わるなどしたのち、CDOに就任する運びとなりました。

GMOペパボ株式会社 執行役員 デザイン部長 兼 CDO(Chief Design Officer)小久保浩大郎さん
GMOペパボ株式会社 執行役員 デザイン部長 兼 CDO(Chief Design Officer)小久保浩大郎さん

実は入社した当時から、CDOの話が挙がっていなかったわけではありません。そのため、会社がデザインや僕に求めていたことも、当初から変わっていないと思います。

ただ、弊社に限らず一般的にはほとんどの経営者の方は当然ながらデザインの専門家ではありませんので、会社としてデザインに何を求めているのかを言語化し、理解の解像度を高めるのは難しいのが現状だと思います。そしてそれが、ビジネスとデザインの関係を考えるうえで今いちばんの課題でもありチャンスだとも言えるでしょう。そういう状況が、CDOのような役割が求められ始めてきた背景にあるのではないでしょうか。

だからこそCDOは、具体的に何かを求められて取り組む立場ではないと考えています。経営や事業のためにデザインは何ができるのかをとらえ、何が問題なのかを見出し、定義して、改善する。そのためにチームを動かして成果をだす人が、CDOだと思うんです。

CDOとして取り組んだ4つの施策

――CDOとしての取り組みについて教えてください。

まず行ったのは、デザイナー全員と仲良くなること。至極当たり前のように見えますが、非常に重要なことです。

CDOのような立場になったとき、もしくはそれに近い形で組織に加わったときのコミュニケーションには、経営陣やマネジメントレイヤーとのコミュニケーションと、現場のデザイナー陣とのコミュニケーションというふたつの方向があると考えています。

専門職のリーダーはみんなの意見を吸い上げて、民主的な代表者といったポジションを取ってしまいがちですが、僕はそうではないと思っていて。その職能や専門分野の知見、実行力を駆使し、いかに事業成長や業績、会社のミッションに貢献できるかを担うことこそが、リーダーの役割であり本筋。その実行手段として、あるときには民主的なリーダーのように振る舞うこともあるとは思いますが、とくに弊社のような株式会社や上場企業は、株主からも社会に対する価値を創出することが求められているので、そこに対してコミットすることがいちばんのミッションなんです。

そう考えると、何か施策を実行して最終的に責任を果たさなければならないので、そのときに僕が示した方向にみんながしっかり共感し、納得して取り組んでもらえる状態でなければ成果を出すことはできない。そこでまずは、新参者としてデザイナーと仲良くすることを目指しました。

また、今組織がどういう状態なのか、個々人が何を考え、どんな不安を感じているかなどの状況を知るため、全員と面談を実施。そこでわかったのは、みんなが会社の中でどんな役割を担い、何を目指しているのかという意識を持ちづらい状況にいるということです。

それを解決するべく最初の頃に行ったのは、「ペパボデザインスキーム」という形での概念整理です。ペパボのデザイナーとして取り組んでいることや、それが生み出す意味、誰に対して何を提供しているのかなどを構造化し、図式化しました。

出典:デザイナー向け会社紹介資料/GMOペパボ株式会社
出典:デザイナー向け会社紹介資料/GMOペパボ株式会社

その次に行ったのは、シニアデザイナーに対する要求の明示化です。GMOペパボの評価制度は、等級制度を採用しているためそれぞれの等級に求めるものはあったのですが、それが少しふんわりしていた。とくにシニアデザイナーは、具体的に求めていることが曖昧で、意識も共有できていないという印象でした。さらに、僕は今GMOペパボが5社目で、受託の会社も事業会社も経験してきたため、世間がイメージするシニアデザイナーの肩書に求められているものとGMOペパボ内の肩書に、認識のずれがあるように感じていました。そこで、GMOペパボのシニアデザイナーとして担ってほしい役割や持つべきスキルを明示したんです。

ただ、これは、諸刃の剣だとも感じていました。それを僕が言うことで「何だあいつ」と反発が生まれるか、モチベーションを上げてもらえるのか……。みんなの基準や意識よりもかなり高いバーを設定したと思っていたので、賭けのような要素もあったんです。

ですが、僕のわがままで設けた高い基準に対して、みんなが理解を示し、かつ納得し、短い期間でキャッチアップをしてくれた。それがとてもうれしかったですし、素晴らしいことだと思いました。GMOペパボにある「みんなと仲良くする」というクレドや、大切にしているフォロワーシップを発揮してくれたんですよね。そうやって、誰かが少し高いハードルを設定し、そこに照準を合わせて進んでいくことの重要性も改めて実感しました。

似た話で言うと、採用基準の基本要項も変えました。これも以前は比較的ふわっとした内容で、非常に日本的なメンバーシップ雇用のマインドが表れた募集要項だった。それをスキル面やプロフェッショナルとしての素養に焦点を当てたジョブディスクリプションに書き直しました。少し高い基準を示した結果、翌年の新卒の応募数が前年の半分に。人事の担当者をひやひやさせてしまいましたが、高めに設定した要項にしっかりと合った方に応募していただき、質と数ともに満足のいく採用ができたと思っています。

それに付随して行ったのは、デザイナーのさまざまなスキルを並べたうえで、今ペパボが組織的に評価していきたいスキルエリアを6つ設定したことです。この6領域を意識して専門性を高めていくと、組織としてもそういう仕事を依頼しやすくなるし、それが結果的に評価につながるという仕組みです。それぞれのデザイナーを枠におさめることはしたくなかったので、そこからひとつ選んでもらうことはせず、あくまで提示だけしました。

隔月で行っているデザイナー全員が集まる勉強会のテーマも、6つのスキルエリアに沿ったものにし、毎回1テーマずつ取り上げるようにしています。最初は業界全体のレベル感や、一般的にデザイナーがどのような成果を出しているかをみんなが理解しづらい部分もあったので、1周目は僕が、その領域のスキルを強化することの意義や具体的なスキルなどについて伝えていきました。

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