インターネット広告企業の株式会社アドウェイズで、クリエイティブ部門の責任者を務めている遠藤です。
前回の記事では、昨今デジタル広告業界に変化が訪れており、そのためデザイナーも“次のステップ”に進むことが必要なのではないか、という旨をお伝えしました。デザインという手段を駆使し、ビジネス視点でクライアントの課題解決を行い、ユーザーにとっても価値ある情報を届けられるような広告デザインづくりをすることができる人材の評価が上がりつつある――。私たちを取り巻く環境はこのように変わってきていると思います。
では具体的にどのようなゴールを掲げれば、デジタル広告デザイナー・ディレクターとしてキャリアアップすることができ、この業界における価値向上に貢献することができるのでしょうか。今回はこれらのテーマについて、私なりの答えをお伝えしていきます。
オフライン広告とデジタル広告におけるデザイナーの違いとは
これからのデジタル広告デザイナー・ディレクターにどのようなスキルが求められるのか。それについて考察していく前に、まずはほかの広告業界で働くデザイナーとの違いを考えていきましょう。
大きく分けると広告は、テレビや雑誌、新聞といったオフライン広告と、デジタル広告とも呼ばれるオンライン広告のふたつがあります。その中で働くデザイナー・ディレクターたちは異なる仕事をしていると思う方もいるかもしれませんが、「広告としてのクリエイティブを制作しユーザーに価値を届ける」という意味で、その向き合いかたは同じです。
もちろん、媒体の大きさや関わる人数、ひとつの広告をつくるために必要な時間などは、オフライン広告とデジタル広告にはさまざまな違いがあります。そのなかでもとくに大きな違いのひとつが“ひとつの広告に対する視点”だと考えています。
オフライン広告の場合は一般的に、コピーライターやクリエイティブディレクターという役割のメンバーがその広告における全責任を負っていることが多い印象です。彼らは広告制作現場の責任者として多種多様なクリエイターたちをまとめ、ひとつの広告をつくりあげていくために現場を取り仕切っています。クリエイティブディレクターと一緒に働く若手のデザイナーたちも、将来その立場で働くために、デザイン制作業務の枠組みを超え、周りのデザイナーと差別化できるスキルやビジネス視点を持ち、クライアントの課題定義、競合や市場調査、現場進行管理など、さまざまな仕事に取り組んでいることが一般的です。
つまり彼らの多くが、さまざまな経験や情報を企画に落とし込み、戦略のストーリーを描き、最後までプロジェクトの責任を負うといった“長期的な事業成長”を追求しているということです。また、時間や予算をかけて大きなプロジェクトに取り組むことが多いため、その分クライアントへの理解も重要になります。どのように価値を創出するか、高めていくかといったクライアントの課題に対し、広い視野を持って動く必要が生じるからです。
それに対してデジタル広告業界におけるデザイナー・ディレクターは、クリエイティブのA/Bテストを繰り返しながらPDCAを回すという大きなミッションを持っています。デジタル広告は行動ターゲティングやビッグデータにもとづいた配信手法を取り入れることができ、かつ短期間で結果がすぐにわかるという利点があるため、効率的に広告を届けることができるのです。この点は、デジタル広告ならではの強みと言っても良いでしょう。
しかし、現状は多くの訴求、多くのバリエーションでクリエイティブをつくることが業務の大半を占めていることがほとんど。この点に関しても、まだまだ改善の余地があると私は考えています。