ミスリードが起きるケースと、フラットに進行できるケースの違い
ではなぜ、伝える側は受け取る側よりも優位に立っているような感覚を生んでしまうことが多いのでしょうか。
巨匠のイラストレーターであれば、そんなことはないのかもしれませんが、多くの場合、指示を受ける形でイラストレーターが作画をするケースが多いでしょう。そうした職場でズレが発生した時に、イラストレーターのミスリードだと言われてしまうケースがあるのは、単に作業の上流と下流というだけだった関係が、立場の上下関係と錯覚してしまうからなのでしょうか。日本には、上座と下座の文化もありますので、上下関係を設定してもらったほうが働きやすいという意識が常態化したものなのかもしれません。
この上意下達のような構造はどのように生まれるのか、私はとても気になっていました。rala designでは、大学の同級生と役割を分担していたこともあって、なるべく並列な立ち位置であることを目指しましたが、年齢や仕事経験に差もあったことから、それは容易ではありませんでした。ズレが生まれたときには、ミスリードの一言で修正依頼しないよう、なるべく理由を説明するように心掛けましたが、どうしても説得するような形になってしまうのは気掛かりでした。
そんな想いを抱きながら日々仕事を進めていると、ちょっとした気付きがありました。
それはクライアントワークと、セルフプロダクションでは、上意下達のような構図に変化が生ずるということです。rala designでは、メッセージカードのようなペーパープロダクトを自ら企画して、製造・在庫しながら販売まで行うセルフプロダクションを行っており、その際もデザイナーとイラストレーターの役割分担で進行していました。
しかし、その時は比較的フラットな状態で仕事が進行するのです。初期段階から相談し合い、修正する際もやはり理由を細かく伝えていました。すると、私が構成を考えて提示しても、イラストレーターがそれを変更し、作画を提出するパターンも出てきました。お互い同じ情報を持っているので、イラストレーターが自分で判断し、こちらのほうが良いと思うイラストで仕上げるのです。これは意図しないプロダクトに迷走する不安がある一方で、ズレから新しい発見をするチャンスも増えます。すべてが自己責任のセルフプロダクションだったため、多少は行き当たりばったりなやりかたで進めることができるゆえの、イラストを通じたフラットなコミュニケーションでした。
ズレたバトンを笑ってつなぐ
クライアントワークでは、外部の人とのやり取りが発生します。会社の規模が大きくなれば、専任の営業さんが対応することになるでしょう。すると、一旦クライアントから預かった案件情報を、社内のクリエイターに伝達する必要があります。この時に窓口となったディレクターやデザイナーが、クライアントの要望を正確に伝える工程が発生しますが、そこでクライアントの重みを再現するために、ときにはわかりやすくしようと少し強調して(盛って)案件説明をしてしまうことがあると思うのです。
すると、いつの間にか伝達役がクライアントの化身となり、そのままディレクションやデザインを行えば「クライアントの要望を反映させた指示」としてイラストレーターに伝えられることになります。
イラストレーター側から見れば、受けた指示はクライアントの要望を踏まえたものなのですから、独自の提案や意見をしてもクライアントの要望から外れる方向に行ってしまうだろうと感じてしまいます。そうなると、案件をスムーズに進めるために、クライアントの存在感を匂わせながら指示したい側と、クライアントの要望をなるべく把握しておきたい受け止め側の希望が合致し、情報を出す側ともらう側で上意下達の構図が出来あがっていくのだろうと感じています。
社内のクライアントの窓口役の案件情報の共有の仕方が、クリエイティブチームを直列につなぐのか、並列につなぐのかという協働の関係性を左右する要因になっていると私は感じています。そして、すべての情報を同時に抜け漏れなくクリエイター全員が共有することの難しさを考えると、ズレはいつの時代も生まれ続け、偶然の価値がそこにあるのかを私たちに問うてくるのだと思います。
冒頭でもお伝えしたように、私はズレをなるべくなくしたいと思いつつも、偶然に生まれてしまったズレについては愛着を感じています。皆さんもイラストレーターと協働する際には、ズレが生まれた時に素直に向き合いつつも、お互いに笑って、おもしろがってみてはいかがでしょうか。
今回は、イラストレーターとの関係から生まれるズレを活かして使いこなせるか、というお話でした。
実はこれは、イラストレーターの満足感と密接につながっています。自分の作画が人から認めてもらえるかがひとつの気掛かりな要素となるイラストレーターにとって、納品物から満足感を感じたり、クライアントやその先の誰かを幸せにする充実感を得ることができるかどうかは、心の報酬としてとても大切なことです。そして、協働するならばそれらをイラストレーターの個人的な問題とせずに、マネジメント課題のひとつとして達成できるようにしたほうが良いのではないかと考えています。このあたりのお話は、またいずれお伝えできればと思います。
イラストレーション = Kana Nitta