“外”とどう付き合うか 家づくりで大切なこと
――まずは荒川さんが設計士になるまでの経緯を教えていただけますか?
元をたどると、父親が設計事務所をやっていたんですよね。昔から絵を描いたりなにか作ることが好きで、小学校の授業だと図画工作が好きでした。父親が、当時は水彩絵の具でパースのようなものを家で引いているときがあったのですが、子供の目からみると、色がついたパースって写真と区別がつかなくて。どうしたらこんなものが描けるんだろうというのは興味がありましたね。だから仕事に就くことを考えたときに、ほかのことをやるという選択肢が自分の中になかったですね。
ですので大学も建築学科に進み、大学院の修士課程も終了しました。そして当時「旭化成工業」という名前だった現在の会社「旭化成ホームズ」に入社し、設計士としてのキャリアをスタートさせました。最初に担当したのが、東京の世田谷区、渋谷区などといった城南エリアです。。
――荒川さんは30年以上にわたって、企業で働く設計士として家づくりに関わってこられましたが、今まで独立しようと思ったことはありますか?
あんまりないんですよね。簡単に言うと居心地がいいということがひとつと数でインパクトが出せるからでしょうか。たとえば街を変えていきましょうとなったときに、ひとつおもしろい家ができてもあまり大きな変化はもたらせないと思うのですが、いろいろな街に1戸ずつ建てることができれば、そこから街そのものを作るということにも関われるはず。これはインハウスならではの醍醐味かもしれません。
――では、家づくりに携わるなかで大事にしていることはありますか?
旭化成ホームズの「ヘーベルハウス」では、20年以上前から「ロングライフ住宅」という言葉を使っています。
住宅として、機能や性能が長持ちするという意味での「ロングライフ」だけではなく、デザインそのものにも耐久性がなければいけない。生活スタイルや家族構成は10年経てばそれぞれ大きく変わると思いますし、だからこそ、住みかたとか住む人が変わっても、人間という生き物が快適に生活できる場を作ること。これが大切なのではないかと考えています。
もうひとつは「外」とどう付き合うか。
たとえば、夏は涼しくて冬はあったかい家というのは、多くの人の理想ではあると思いますし、高断熱の材料で作れば、冬には熱量を外に逃がさず、夏はそれをカットするというような家は、原理としてはもちろんできると思います。
ですがそれだけを意識し窓を少なくしてしまうと、外界との接点を断絶することになるんですよね。おそらく生き物の本能として備わっているような、空が青くてきれい、青々とした緑が気持ちいい、さわやかな風が入ってくると心地いい、といった自然を感じる快適さは、無視できないのではないかと思うんですよね。だからこそ、人工的にそういった環境を作るという話とは別に、『外』とどのようにつき合っていくかということは、とても重要だと思います。
ですから「住宅をデザインする」というのは、外とどうつながるかをデザインすることなんですよね。外から何を取り込んで、何を取り込まないかを決めることだと思うんです。そしてそれを突き詰めていくと、窓の話になっていく。
たとえば家を完全に断熱材で囲んだとすると、窓がなくなるんですよね。いまだと映像で昼にしたり夜にしたり、時間の経過を窓に映し出すことはテクノロジーとしてできると思います。でもそうではなくて、かといえばただ緑が見えるとか、空が見えるとかでもなく、外をどのように中とつなげていくかが大事なんです。
そうやって考えていくと、取り込んでいくものって限られているんですよね。入ってくるものでいちばん大きいのは光、熱、それから景色。あとはたとえば猫が入ってくるというような、物理的に何かが移動してくることで取り込まれるもの。あとは風ですね。おそらくこの5つくらいしかないんですよ。
だから、これらをどう制御していくのか。入れたいときには入れることができ、入れたくないときは入れないように、入れ込む方向やその大きさを決めていくということです。設計というと、間取りを作ることをイメージされる方が多いと思うのですが、こうやって取り込んでいくものを取捨選択していくと、自ずと空間ってできあがっているんですよね。