本連載のお品書き
- 第1回:UXがなぜ必要か
- 第2回:UXにはどんなデザインが必要か
- 第3回 (今回):UXデザイン、本当にその手法でいい? 手法は手法
- 第4回:アプリ開発におけるUX 運用後の改善が大事
こんにちは。フェンリルの末綱です。前回は、UXにどんなデザインが必要なのか?についてお話させていただきました。
ひとことにUXデザインと言っても、その意味や役割は広いので、5つの段階と3つのデザインにわけて解説しました。
[前回のまとめ] UXにはどんなデザインが必要か
- 5つの段階:戦略/要件/構造/骨格/表層
- 3つのデザイン:ビジネスのデザイン/コンテキストのデザイン/インターフェイスのデザイン
第3回となる今回は「UXデザイン、本当にその手法でいい?手法は手法」と題して、5つの段階と3つのデザインをもとに、手法についてご紹介します。
今回も、UXの5つの段階である戦略/要件/構造/骨格/表層にわけて考えていきます。
では早速、各段階でよく用いられる手法の一例をご紹介します。各段階で課題が異なるので、適切な手法を用いているか、また手法が手法にならないように活用するためのポイントも含め、お伝えできればと思います。
1.戦略段階
戦略段階では、「どのようなユーザーに対しどのような価値を提供するのか?」を定義します。
また、ユーザーの行動は世の中の流れに左右されます。市場を見て未来を仮説立てる必要があります。事業の位置づけや、サービスやプロダクトの収益も考え、提供できる体制を検討することも重要です。
ユーザーの仮説を立てる
手法の一例:ペルソナ法
プロダクトやサービスを利用するユーザーの中で、もっとも重視している人物像を仮説立てることです。
メインのユーザーを定めず「すべての人々」を対象にデザインした場合、結局誰にも響かないデザインになってしまうケースが多いです。意図的にすべての人々を対象にしている場合以外避けたほうがよいでしょう。
ユーザーの価値観や抱えている課題。どんな日常を過ごし、日々生活しているのか。そういった内容をまとめていきながらユーザー像を明確にすることは、ユーザー体験を考える上で大変有効です。ユーザー視点での意思決定をプロジェクト内で行うためにも役に立ちます。
また、これを「戦略」の段階で行っておくとプロモーションの無駄を省くことや、途中から参加するメンバーに共有するときの認識齟齬を防ぐことにもつながります。
実際に見て、体験する
手法の一例:フィールドワーク
人もしくはコミュニティ、人間の生活を対象に扱い、観察、インタビュー、アンケートなど、広い意味で人々が生活や仕事をする自然な場で行う社会調査です。作り手の視点ではなく、現場の人々の視点で見ることができ、ユーザー視点を得るには有効な手段だと思います。
直接見聞きして確かめたり、実際に体験したことで得た気づきというのは、活字の情報では得られないはずです。そしてそうやって得た学びは、「潜在的ニーズ」の発見にもつながるでしょう。
実際に対話する
手法の一例:ディプスインタビュー
1対1で行い、個人の意見を細かく聞きながら「意思決定までのプロセスをインタビューすること」です。行動や感情の理由を「What(何を)」「Why(なぜ)」「How(どのようにして)」まで知ることができます。
このインタビューでは、本人も意識していないニーズ「潜在的ニーズ」にたどりつくことができ、アンケートなどの定量調査では抽出できなかった気づきを得られます。
世の中を知る
手法の一例:PEST分析
Politics(政治的要因)、 Economy(経済的要因)、Society(社会的要因)、Technology(技術的要因)の4つを分析し、世の中の流れに対して仮説を立てる方法です。市場の変化をとらえ、プロジェクトや社内で共有することで、今のニーズではなく、潜在的なニーズを見抜いたり、チャンスがどこにあるかを探ったりすることは不可欠でしょう。
2.要件段階
要件段階では、目的をどのように実現するかなど、その方針をまとめることが重要です。
ユーザーが体験する価値を可視化する
手法の一例:ストーリーボード
「サービスや製品を通して、ユーザーがどんな体験をするのか」を1枚の図や絵にすることで、体験が生み出す価値を明確にすることができます。
戦略段階で得られた事実から、課題、気づき、アイディアなどが、実際にユーザーの体験価値につながるのかを評価することができます。
ユーザー行動を可視化する
手法の一例:カスタマージャーニーマップ
ユーザーの認知、興味、利用(購入)、利用(購入)後の行動やそのときの感情、タッチポイントを時系列に整理し、現状の課題を抽出し、あるべき姿を可視化するときに有効です。どうあるべきかを正確に浮き彫りにするためには、質の高いデータを得る必要があります。
運用方法を可視化する
手法の一例:サービスブループリント
サービスに携わるユーザーや運営者、関係者などを可視化した図です。たとえば、"商品を購入できるサイトやアプリ"だと、商品の配送オペレーションや、会員の方への情報配信、商品提供者、商品管理者といった人たちが関わっていますが、このように、多くの方が携わっているサービスや製品に用いられる手法です。
情報閲覧のみのアプリやスケジュールアプリではこの手法を活用する必要はありません。オペレーションが複雑で、機能を実現するために維持しなければならない人員や運用コストを明確にする場合に活用されます。
3.構造段階
構造段階では「ここまで考えてきたことをどのように実現するか」を機能に落とし込みます。
そのために、概念図や機能構成図などを使い全体の構造を設計し、前段で抽出されたものをもとに、システム全体の概要を構造化していきます。
情報を整理する
手法の一例:情報アーキテクチャ図
情報アーキテクチャとは、ユーザーにとって必要な情報をわかりやすく、見つけやすくすることです。そして、「組織化、ラベリング、ナビゲーション、検索システム、シソーラス、制限語彙、メタデータ」など、ユーザーにとって必要な情報や構成要素を整理した図のことを「情報アーキテクチャ図」といいます。
そのユーザーが誰であるか、どんなときに使うかによって、わかりやすさやみつけやすさの基準は異なります。先ほどご紹介したペルソナやカスタマージャーニーマップで抽出した価値や課題などをもとに構造を整え、方向性を定めましょう。
情報を「使いやすく」「見つけやすく」「理解しやすく」するための3つのポイントはこちら。
一貫性を持たすこと
ラベリングや構造の一貫性は重要です。たとえば、戻るボタンで戻る場所や戻りかたが1箇所でも異なるとユーザーに不信感を与える場合や、誤操作につながる可能性があります。
ラベリングも同じ機能や事象を同じ意味でも別の言葉を使うとユーザーが考えて使わなければならず、使いにくさ、理解しにくさにつながります。できるかぎり一貫性を保ちましょう。
関連性の高い要素を近づけること
たとえば「牛肉、豚肉、鶏肉、イカ、タコ、赤貝」とある場合、肉類に分類される「牛肉、豚肉、鶏肉」と、魚介類に分類される「イカ、タコ、赤貝」にそれぞれまとめると閲覧しやすくなるでしょう。
情報の重要度をつけること
たとえば、宿泊予約サイト。ホテルの名称、宿泊料金、施設の設備、クチコミ、外観・内観、駅からの距離など、すべて同じように表示するととてもわかりにくくなります。
重要度はユーザーによっても異なります。個人の利用なのか、出張で使うのか。上質な体験を求めているのか、利便性を優先させたいのかなど、前段で抽出したユーザー像をもとに重要度を設定し、適切な情報を表示することが大切です。