リモート下でも職場と同じ描画体験を提供するために ワコムの新機能「Wacom Bridge」開発の裏側

リモート下でも職場と同じ描画体験を提供するために ワコムの新機能「Wacom Bridge」開発の裏側
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
2024/04/05 08:00

 ワコムが今年1月17日にリモート環境下でのペン入力最適化機能「Wacom Bridge(ワコムブリッジ)」をリリースした。これは、リモートアクセスソリューション「Splashtop(スプラッシュトップ)」を提供するスプラッシュトップ社と共同で開発された新機能で、リモート環境下での描画体験を向上させるもの。Splashtop Business PerformanceおよびSplashtop Enterpriseと、ワコムブランドのプロフェッショナル向けペンタブレットを組み合わせることで利用できる機能だ。そんな同機能は、どのような経緯で開発され、どのような特徴を備えているのか。今回は、スプラッシュトップのセールスエンジニア 山﨑冠人さん、ワコムのビジネス部門にてクラウド ETC プロジェクトリーダーをつとめる淺田一さん、同社 テクノロジープランナーの加藤龍憲さんに話を聞いた。

リモート下で顕在化した課題解決のために始まった「Wacom Bridge」の開発

――まず、「Splashtop」がどのようなサービスなのか教えてください。

山﨑(スプラッシュトップ) Splashtopは、リモートアクセスのためのサービスです。もっとも多いのは、在宅ワークなど「会社のPCにリモート接続し画面転送をする」ために使用するケースです。コロナ禍での緊急事態宣言を受け、すぐにリモートワークを実現するためのツールとして一気に需要が増えました。クラウド経由で使えるサービスのため初期費用も不要です。

こうしたリモートアクセスは、接続先のPCに遠隔でアクセスする仕組みのため、処理性能は接続先のPCのスペックに依存することも特徴です。もちろん、専門的な作業をするためには自宅PC側のスペックもある程度必要にはなりますが、ご自宅のPCのスペックが高くなかったとしても、職場のPC環境を活かした作業を行うことが可能です。もちろん通信についてはSSLを採用しており、画面の差分情報だけを転送する仕組みになっているため、セキュリティ面でも安心して運用いただけるようになっています。

スプラッシュトップ株式会社 セールスエンジニア 山﨑冠人さん
スプラッシュトップ株式会社 セールスエンジニア 山﨑冠人さん

ご利用いただいている業界の幅も広く、教育機関や金融系の企業、最近では建築・設計や映像・アニメ制作業界での利用も増えてきています。こういった企業様に共通するのは、データの持ち出しに対して厳しいルールがある一方、VPNを使ってしまうと回線が逼迫し、満足に作業ができない点です。

――ワコムがスプラッシュトップと「Wacom Bridge」を共同開発した背景について教えてください。

淺田(ワコム) ワコムの事業の柱は大きくふたつあり、ひとつが液晶ペンタブレットのような自社ブランドの製品開発と提供です。たとえば、イラストや3Dスカルプティング、映像編集など、クリエイティブな用途で使っていただけるものと、病院の電子カルテや市役所の窓口、ホテルのチェックインといった場面で使われる業務用端末があります。そしてもうひとつが、ノートパソコンやタブレットPC、スマートフォンなど、スタイラスペンのセンサーに関するOEMでの提供。今回の「Wacom Bridge」は前者にあたります。

山﨑さんの話にも挙がっていたとおり、コロナ禍で映像やアニメ関係の企業様がリモートアクセスを使用するケースが増えました。もちろん、ワコムにとってはどちらの業界にも以前から多くのユーザーさんがいましたが、「リモート環境」における新しい使われかたについては課題も顕在化してきていた。それを解決するために、Wacom Bridgeの開発を始めました。

株式会社ワコム ブランドビジネス部門 クラウド ETC プロジェクトリーダー 淺田一さん
株式会社ワコム ブランドビジネス部門 クラウド ETC プロジェクトリーダー 淺田一さん

加藤(ワコム) たとえばリモートアクセス環境でペンタブレットを使ったときに、ギュッと力を加えても筆圧がかからない、PCがマウスとして扱ってしまうなど、ペンとして期待する動作ができませんでした。

つまり、自宅のPCやタブレットではいつもどおり使うことが可能ですが、リモート環境で通信のやりとりをしている間に“ペンタブレットとして必要な情報”が欠落してしまっていた。我々として、この課題を解決する必要がありました。

ちなみにこれまでも「サインタブレット」など、ビジネスシーンでの筆圧や傾き検知などを含め、リモート活用を想定した製品がまったくなかったわけではありません。しかしリアルタイムに筆圧や傾きなどを反映し、スピード感をともなうクリエイティブな用途を想定したソリューションはありませんでした。

※この続きは、会員の方のみお読みいただけます(登録無料)。