これからの事業創出は「熱意」を中心に
――事業づくりでとくに意識していることはありますか?
青木 全員に刺さらなかったとしても「一部の人が強烈に好きになってくれるものづくり」を心がけています。そうすると、それを広めてくれるファンや熱量の高いユーザーが集まってくるんですよね。
当社の場合、クラウドファンディングで最初に買ってくれるユーザーさんは熱量が高いです。そのため、製品が良ければ積極的に周りにオススメしてくれますし、改善したほうが良いと感じた部分があれば長文で理由を書いて送ってくれる。そういったユーザーさんも、きちんと向き合えば味方になってくれます。
たとえばPetit Qoobo(プチ・クーボ)という商品は、既存商品であるQooboのファンミーティングを行った際、ユーザーさんと妄想を語り合うような「アイデア会議」で生まれたアイデアをもとに開発されたんです。「公園に連れて行きたい」「会社に持って行きたいけれどQooboだと大きすぎる」との声があって。
松本 それでミニサイズが生まれたんですね。アイデアを採用する際に何か基準はあるのですか?
青木 直感に従って決めていることが多いかもしれません。ダメもとでも取り組んでみて、出来がよかったらクラウドファンディングしようかな、という感じです。実現することができたら、少なくともそのファンの方たちは盛り上がってくれるはず。事業計画を練ってから始めようと思うと腰が重くなってしまうので、試作品を作るまでは「軽くやる」ことも重要だと思います。試作品があることで、いろいろなフィードバックをもらえますしね。
――ユカイ工学さんでは「作りたいもの」がまずあり、そのあとに「ビジネス」や「課題解決」につなげていくのですね。
青木 そうですね。結局ビジネスになるかどうかは、プロダクトと課題のマッチングだと思っています。そのため僕たちはまずたくさんのアイデアと発明のストックをつくり、そこに合う課題を見つけにいくというスタイルです。
松本 アイデアをすぐに形にする部分が、ほかの企業だとなかなかすぐに真似できないところかもしれません。言葉や資料での説明ではなく、実際使ったからこそ良さがわかるプロダクトもありますが、試作品を作るまでのスピードが速くすぐに検証に移ることができる点が、ユカイ工学さんの事業開発におけるポイントではないかと感じました。
――青木さんの言葉にあった「世の中の多くの課題は解決している」今、これからの事業創出では何を目指せば良いのでしょうか。
青木 ユーザーイノベーションの有名な事例で「マウンテンバイク」の例があります。「自転車で山を走ったらおもしろそう」と思ったロードレーサーが、自身で改造して自転車を作り、仲間内に販売していたところから始まりました。ですが今、ほとんどのマウンテンバイクは街中で乗られていますよね。「GoPro」もその類で、創業者がサーフィンを楽しむときにサーフボードに付けられる小さなデジカメが欲しいとの思いから開発したのが始まりです。
どちらにも共通しているのは、課題解決から始まっているわけではなく、「おもしろそう」「楽しそう」が起点となっていること。このように人の感性に訴えかけるような事業こそ、大きなムーブメントを生んだりするのだと思います。
松本 今後の事業計画を時系列順に丁寧に考えたとしても、そのとおりまっすぐにいかないことがほとんど。むしろ世界地図を広げるようなイメージで、さまざまな方面に手を出したほうが上手くいく感覚があります。
先述のとおり「熱意に共感してくれる人を巻き込む」ことに注力したほうが、巡り巡って事業の拡大につながる。事業づくりではありながら、結局は「熱意の周りに人が集まっている絵」をつくれたら良いのではないかと思っています。
青木 少し前まで、家庭向けロボットの市場はありませんでした。ようやく今、僕たちのユーザーも「ロボットだから」ではなく「可愛くて欲しいから」という理由で購入する方が多くなり、だからこそ熱意を持った人が集まっている。市場ができつつあると実感しています。
ファミコンの登場によって「家でゲームをやる」ことが当たり前になり、家庭用ゲーム機の市場が生まれたように、そういった象徴的なプロダクトがロボットの世界でも生まれるはず。それを自分たちの手でつくることが、僕たちのこれからの野望です。