熱意の周りに人が集まり、事業を動かす
――青木さん自身の「あったら良いな」から始まった事例はありますか?
青木 子どもが小学校にあがったとき、ひとりでお留守番をしているのが寂しそうだなと感じていました。そんなとき「隣にこんなロボットがいてくれたら」との思いから生まれたのがBOCCO(ボッコ)です。
そのコンセプトは「座敷わらし」。座敷わらしが家にいると繁栄するという言い伝えもあるため、家にいることでみんながハッピーになるロボットをと思いました。名前をBOCCOにしたのは、東北弁で座敷わらしを「座敷ぼっこ」と呼ぶためです。さまざまなデザインの試作をしましたが、子どものおもちゃとして「ブリキのロボット」のイメージに近い現在の形になりました。
松本 試作品を見てみると、いわゆる「二足歩行のロボット」だけではないのが印象的です。
青木 当時のロボット業界では二足歩行ロボットの研究が主流となっており、いかに機敏に歩けるかの技術面に注目が集まっていました。BOCCOはそのなかでロボットと言えるかギリギリのラインではあったのですが、僕たちはあえてこれを「ロボット」と定義することで、これからのロボットの役割やコミュニケーションを提示したのです。
――おふたりは新規事業づくりで、課題にぶつかることはありますか?
松本 企業で新しい事業やプロダクトをつくろうとすると、自分のアイデアを理解してもらえなかったり、予算の問題で断念したりすることもあります。私もさまざまな課題で挫折した経験があるのですが、ユカイ工学さんではいかがですか?
青木 もともとあまり予算が潤沢でないこともあり(笑)、それでも実現できる方法で取り組んでいこう、というイメージでしょうか。
松本 作る人の熱意を大事にしながらも、収益を上げるためのバランスも必要ですよね。
青木 そのために私たちが大切にしているのが「スモールスタート」です。たとえばデジタルプロダクトであれば最初からすべての機能をつくりきってリリースするのではなくて、プロトタイプの段階で既存のお客さまにヒアリングをしたり、試作品を多くの人に見てもらったりするようにしています。ある程度プロダクト化の見込みが立ったあとに展示会などで発表し、反応が大きいものはクラウドファンディングで予約を募るんです。
もちろん、価格帯によって商品の売れ行きは変わるため、小売り関連の企業さんに価格や売り場についてアドバイスをもらうこともあります。
たとえばしっぽのついたクッション型セラピーロボット「Qoobo」は、インテリアの売り場になじむよう、商品の見た目やしつらえ、色を調整したり……。インテリア売り場やデザインショップで販売することを考慮し、店舗で取り扱ってもらいやすいようチューニングをしました。
松本 ユカイ工学さんは「社員が作りたいものの実現」と「ビジネス」(事業化)、「社会問題の解決」の3つを満たしているようにお見受けします。しかし私自身、アイデアを考えて開発するフェーズまでは順調に進んでも、販売する、収益をあげる段階で壁にぶつかり、「事業化」に至らないケースにもどかしさを抱いています。
ただそういったなかでも最近感じているのは、商品やサービスへの熱意をぶれることなく発信し続けていくと、ファンは着実に集まってくれるということ。その人たちが実際に購入するわけではなかったとしても、熱意が少しずつ大きな塊になっていく。そうやっていろいろな形で応援してくれたり、別のプロジェクトが動き出したりすると、良い方向に働くことが多いんです。そのため事業の発案者が、商品やサービスに込めたコンセプトを絶やさずに伝え続けることは大切だと実感しています。