2:「ジャパン・ブルー」の世界に浸る、圧巻の水の躍動感
次なるゾーンに足を踏み入れると、一転して藍色の空間が広がっている。世界から「ジャパン・ブルー」と絶賛された日本独特の青。葛飾北斎や歌川広重の描き出す大海や荒波の世界が、3DCGやプロジェクションの技術でダイナミックに動き出すのを目の当たりにすると、まるで夢を見ているかのような幻想的な気持ちになる。
浮世絵のまま、まるでリアルな水のような動き。そして波の表現は逸品。音響との同期も計算し尽くされているようで、視覚的にも聴覚的にも“水”のエネルギーを五感で感じることができる。技術的な関心はもちろん、純粋に「この藍色が美しい」と感動に浸る時間を、ぜひゆっくりと堪能してほしい。
3:美しい色彩と繊細な人物表現が花開く「美人画と花の空間」
藍色の衝撃を抜けた先に待ち受けるのは、花の彩りと女性美が印象的な、まさに華やかさの極みと言えるエリア。喜多川歌麿や歌川国貞などが描く美人画の、絶妙な表情の変化や仕草が大画面に浮かび上がり、周囲を取り囲むように咲き誇る桜の花びらと融合する。ここでは、江戸時代に生きた女性たちの息づかいが、デジタル技術で鮮やかに蘇るのだ。
美人画というと静的なイメージを抱く方も多いかもしれないが、ここでの演出は“今の時代”の視点で再解釈し、ひとつの大きなアートとして構築している。華やかな桜のグラフィックと、女性の繊細なまなざしのコントラストが醸し出す神秘的な雰囲気。思わず長い時間、その空間で足を止めてしまった。
4:遊び心に満ちた浮世絵を触って楽しむ「インタラクティブ空間」
ここで少し趣向を変えて、子どもから大人まで楽しめる遊び心たっぷりのコーナーにも注目してほしい。歌川国芳の擬人画やだまし絵など、ユーモア溢れる浮世絵が大きなテーブル状のインタラクティブディスプレイに投影され、実際に手で触れたり動かしたりすることで絵が変化する仕掛けが用意されているのだ。
昔から庶民の娯楽として親しまれてきた浮世絵には、こうした“クスッ”と笑える要素もたくさんある。しかも、ただ眺めているだけでは気づかない隠し要素が満載で、来場者同士で「ここにも何かしかけがあるのかな?」と探し回る光景もしばしば見受けられた。まるで江戸のお祭りに迷い込んだかのような高揚感があり、この遊び心は子どもだけでなくクリエイターにとっても、新たなアイデアの源になるのではないだろうか。
5:写楽の神髄に迫る「大首絵」のゾーン
個人的に強い印象を受けたのが、東洲斎写楽の『大首絵』コーナーだ。写実的でありながら極端にデフォルメされた役者の顔、そして大胆な構図。そこに“動き”が加わることで、写楽の世界がこれまで以上に異彩を放っている。「役者の真の姿に迫る」と言われるように、当時の江戸の観客が度肝を抜かれたであろう衝撃を現代でもしっかりと味わうことができる。
写楽はわずか10ヵ月ほどの短い間に140点以上もの作品を残し、突如姿を消した謎多き絵師として知られている。動く映像の中で、そのミステリアスな存在感をさらに際立たせている点が秀逸だ。ぜひ足を運んで、自分の目で確かめてみてほしい。「クリエイターの先輩」としての魅力から、学び取れることが多数あるはずだ。