情報発信を“続ける”ために
――いくつかのお題に沿って進めていければと思います。まずは「なぜ情報発信が必要か?」について、考えをお聞かせください。
井上(メルカリ) もともと僕らのデザイン組織も、ほとんど情報発信をしていなかったんですね。ですがここ1~2年くらいで状況が大きく変わってきたし、中で何をしているかがわからないので「メルカリってデザイナーいるの?」と思われたり、正直採用の観点からもよくない。そのため発信を始めたのは、もともと採用のためでした。
あとは発信していくことが、外向けと言いながらもすごく中にも効いてくるんですよね。社内の人同士も、お互いが何をやっているかは実はよくわからないケースも多いので、外にも情報を出すことで、「記事見ましたよ」というコミュニケーションが生まれたり、それに携わったデザイナーの“やった感”にもつながる。社内のプレゼンスを上げるという意味でもとても大切だと思いスタートしました。
坪田(dely) 僕はお酒を一切飲まないんですよ。飲み会もあまり得意ではないし、家でゲームをしているほうが好き。でも、誰かと会ったり交流を持たないと、仕事として成立しないときもあるので、人と会う機会が少ないからこそ、情報を発信することで情報を入ってきやすくしたり、世の中との接点を作るようにしています。そうすると、会いたい人に会えたりもするんですよね。
深津(note) 少し個人の話をすると、僕がブログを書き始めたのは2002年とか2003年。当時の僕はクリエイターというよりは、ブロガー でした。その頃は、ほぼすべてのキャリアの節目は、記事を書いていたときだったんですよ。ある日mixi経由で、中村勇吾さんから「ブログ読んでいるけど、今度遊びに来ない?」というメッセージをもらってthaという会社に入ってFlashを作ったり、「おもしろそうな人にメールを送ってみるか」くらいの気持ちでサンフランシスコでダイレクトメールを送ったら、大きくなる前のInstagramの創業者の人とつながれたり。情報発信するごとに、人生の節目になる出来事が起きていて、発信することがアイデンティティーの一部になっていました。生き様になっているのかな。
――なにか発信をするときに心がけていることはありますか?
坪田 経営層に近い人の発信って、社内外にも影響があるじゃないですか。今は、SNSで会社の人や文化に共感を得て入社企業を決める時代でもあるので、どういう見られかたをしてほしいかは意識しますね。
たとえば、会社のことは発信NGの企業さんもあると思うのですが、delyはスタートアップなので、具体性を出して情報を発信していくほうが世の中には伝わりやすい。delyの一員として発信するとき、経営者としてどういう情報を出すべきかは意識していますね。
井上 逆に僕らのフェーズでは、今まで少し自由に出しすぎていたのでルールを決めるようになったんですよ。
でもそうすると、「これってブランディング的に出していいの?」みたいに、顔を伺ってしまう部分もあって。『メルカリデザイン』というnoteをやっているのですが、ルールを厳しくしたら誰も書かなくなってしまった、という失敗もありました。それで1回潰れかかったのですが、中の人の「出したい」という想いが強かったのでやり方を少し変え、ルールそのものを仕組み化し、また少しずつスタートしました。
深津 これはデザイン業界あるあるだと思うのですが、いまさら新しいところでモノを作れない問題ってありますよね。情報発信に限らず、みんなこだわりを持っていいものを作り、クオリティラインを上げることを仕事にしているから、それをリセットし、新しい場所で比較的ざっと作ったものを世に出すときに、これを世に出していいんだろうかと悩んでしまう。
――わかります。画像とかにこだわり始めると結構時間がかかってしまったり。
深津 おそらく脳内カテゴリーで、ブログが「作品」にカテゴライズされているのです。
僕の中でブログは、スケッチブックやチラシの裏紙なんですよね。発信を続けるコツにもつながるのですが、「記事は作品ではなくスケッチや落書きの類」と心がけると続きやすい。
もうひとつテクニカルな話として、超大作を書こうとすると、大体途中で挫折しがちなんです。僕も未完成のnoteが300くらいフォルダに入っていたりします(笑)。そういうときは書けるところまで書いて「前編」と書いてリリースしてしまう。これが続けるコツだと思っています。後編は書けなくても仕方がない(笑)、書けたらラッキー、くらいの心持ちで。
坪田 僕は発信するときに、仲間の信頼を損なったり後ろめたさを感じないタイミングや内容であるかということに気を配るようにしています。
プロジェクトの仕込みの時期や明らかにリリース前で忙しい時なのに、Twitterやあまり関係ないブログを書いていたり、外で発信していることと内面の行動が伴わないと「こいつ大丈夫なのか」と心配になってしまうと思うので。そこはマネジメント上コントロールをしたり、後ろめたさのない状況を作るようにしています。