映像制作で意識している「時間」のメタ視点
――今回の取り組みに限らず、映像制作全般において井口さんが大切にしていることはありますか?
「作っている時間の密度が作品にも反映される」という意識を持つことです。
映像という時間軸があるものを作っているため、僕が制作にかける時間やプロセス自体も影響すると思っているんです。自分が映像を作っている時間自体が、観る人たちの時間にも影響して共有されていく――。
僕はスマートに作れないタイプで、とにかくひとつの作品に、一気に時間と熱量を投下して密度を作っていく人間です。そういった制作スタイルの裏には、時間への意識がありますね。映像クリエイターは画面の“なか”を気にするだけでなく、自分の時間に対してもメタ的な視点を持つことが重要なのだと思っています。

もともと僕は花火が好きで。花火を見るという体験が、この世のどんな映像体験よりすばらしいのではないかとすら思ったんですよね。大学の卒業制作も「存在する映像」や「物質化する映像」をテーマにしました。
花火は、別の場所から違うアングルで、音や煙の匂いを感じながら、みんながひとつの光の像を見ているわけ。ここに、映像のメタ視点のヒントがあるのではないかと思っています。つまり「見る人がそれをどう体験するか」までを設計することが、モーションデザインのカギであるということ。見る人にとって気持ち良い動きや長さを意識できると、映像の説得力も上がるでしょう。
これは非常にデザイン的な視点とも言えるかもしれません。映像クリエイターやCGクリエイターで意識できている人は、それほど多くないようにも思います。「質感やテクスチャーをどれだけリアルにできるか」にこだわるだけではなく「どうやって映像を体験してもらうか」といった客観的な視点も欠かせません。
今回の球体広告も、そういった視点を持って取り組む、良い経験になったのではないかと思います。
興味があるのは「人が営む場所そのものの設計」
――今回、球体に映像を映すという新しいチャレンジをされました。今後挑戦したいことなど展望はありますか?
井口 現在、映像というメディアはさまざまなものに形を変え、服などもその媒体になっています。そしてSphereのドームが都市のシンボルになっているように、映像が都市設計にも関わっていくかもしれませんし、ますます映像制作は「時間や体験の設計」になっていくと思うんです。
そう考えると、映像クリエイターの手がける範囲は、従来の映像というジャンルを越えて広がっていくでしょう。そういった観点から僕は、人が1日を過ごす体験のひとつとして、宿やリゾート開発などにも興味が湧いています。CEKAIというチームとしても、自分たちが時間をかけて作った何かを体験してもらいたいという思いが強くあるので、人が営む場所自体を作ることに意識が向いています。
――まさに時間の設計ですね。訪れた人が過ごす時間も長いですし、クリエイターがその設計にかける時間もとても長くなりますよね。
そうですね。普通の映像だと、基本的には納品して終わりです。ですが自分のなかの制作のリズムもどんどん変わってきていて、もう少し時間を共有したいという思いもある。映像を「常に生成していく」と表現できるかもしれません。だからこそ、自分の変化と人の時間の変化が交わる接点のようなものを設計できると、おもしろいのだろうなと想像しています。
