球体映像で描いたのは、Adobe Fireflyがクリエイターのインスピレーションを拡張していくさま
――今回のAdobe Summitの球体広告のオファーは、どのような経緯で井口さんのもとに届いたのでしょうか。
CEKAIはSphereに映像を制作することができるチームとしてベンダー登録をしています。アドビからSphereに話があったときに、Sphereがこの案件であればCEKAIが適しているのではないかとつないでくれた形です。具体的な依頼としては、アドビがラスベガスで大きな祭典を開催するにあたり、クリエイターたちを主役にした映像作品を作ってほしいというものでした。
お題は、「Video World」「Collage World」「Illustration World」の3つの映像を作ること。そして決まっていたのは「クリエイターたちがAdobe Fireflyを使ってアイディアを拡張していく様を描くこと」でした。



そのなかで私は、3つの映像の方向性を合わせる全体のディレクションをしながら、Video Worldの制作ディレクションを担当しました。Video Worldはゾートロープ(回転させることでアニメーションが動いて見える装置)からのインスパイアを得て作られています。「インフィニティストーリー」という言葉をコンセプトに、延々と続いていくお話を描くことをイメージしました。
――オファー後、どのようにコンセプトを作成しクリエイティブに落とし込んでいったのでしょうか。
まずはアドビとSphereと、広告全体で描きたいことをすり合わせました。「360度、さまざまな方向から見えるものにしてほしい」という要望に対し、球体だから可能なこと、逆にできないことなどを共有し、イメージしてもらうことが難しい部分に関しては、プレビズ(シュミレーション映像)をお見せしながら説明しました。球体に映像を映すにあたり、クリエイターとクライアントで共通認識と課題を共有することはとても重要だと考えたためです。
その後は、CEKAIが3つの映像に適したクリエイターを提案。各映像の制作に関しては、最初に僕がコミュニケーションを取ったあと、それぞれのディレクターが各方面と連携して進めてくれました。
たとえば、Illustration Worldのディレクションを担当したのは、インドネシアのPutraさん。彼の持ち味であるベクターを想起させるアニメーションはインドネシアのCGチームと連携し、Collage Worldのディレクションを担当してくれた牧野淳さんは彼の持ち味でもあるデザイン性の高い表現を。それぞれの経験値を生かした作品を作りあげてくれました。

また、球体に映像を映すためには、展開図を考える必要があります。紙のように解体してそれを貼り付けていくイメージです。僕自身、プロジェクションマッピングや3D DOOHなどで平面以外の物体に投影する経験はあったものの、球体かつこれだけ大規模なスクリーンは初めてでした。僕たちだけでは展開図の作成が難しかったため、ジオメトリックに強いチームにも参加してもらいました。
約10人~50人くらいのチームでそれぞれ制作は進めましたが、横断的に複数の映像に関わるメンバーもいました。オファーをいただいてから完成までは約2か月というスピードでした。