
本書のキーワードのひとつは、近年関心が高まっている「ファンマーケティング」。その重要なフィールドであるSNSにおいて、企業は「いいね」や「コメント数」によってユーザーの熱量を測ることも多い一方、純粋なその“数”だけでファンの熱を推し量ることに疑問を抱いているケースも少なくないかもしれない。
クラスター社はその疑念に対するひとつの解として、ある程度親しい間柄の人たちが集まってとりとめのない話をする「雑談」に注目することを提案。雑談には、人の興味が表れやすいという特徴があるため、雑談のなかでどのような話題が占めているかを知ることは、熱量を知る指標になりうるというのだ。
そういった雑談を楽しむために大切なこととして、「コミュニティが心理的安全性を確保できる場であること」「外部からある程度遮断された空間であること」が挙げられ、その場として適しているのが「メタバース」だと指摘。そんなメタバースの非常に大きな特徴を、複数の人が仮想空間内で同じ体験を共有できる「『リアルタイム性』に『身体性』が加味されていること」だと表現した。
「アバターという自分の分身を介して、身振り手振りといった動作をバーチャル空間で表現できるため、より豊かな感情を伝えることができます。(中略)
リアルタイムに豊かな感情表現ができるということは、雑談を通じて相手に熱量をより伝えやすいということ。同期体験ができるということは、体験を通じて感じた思いを、その場で一緒に体験した人と共有できるということです。
自分が創作したアイテムをデジタルアートとして思いを共有できる仲間に販売したり、誰かから購入したりすることによっても熱量は共有、拡散されていきます」(P41)
このポイントを軸に、本書ではマーケティングにおけるメタバース活用の利点やコミュニティを活性化させるためのポイントを詳しく解説。
また最終章では、近鉄不動産やKDDIなどメタバースならではの施策に取り組んだ企業が、クラスターCOO 成田氏との対談でその裏側を明かした。cluster上で開催されたバーチャル文化祭「メタメタ大作戦」に携わったテレビ朝日の横井 勝氏は、「リアルの『出来事』とバーチャル空間での『出来事』がつながることで、次世代の体験やビジネスが生まれると感じています」とし、メタバースの可能性について次のように見解を語っている。
「例えばミュージックステーションは、ものすごく熱量の高いファンが視聴してくれています。でも放送は個別に観ていて、放送後もファン同士が個別につながる機会はありません。もしバーチャル空間で集まれる場があれば、視聴前後に熱量の高まったファン同士が感想を語り合ったり、推しの良さを楽しく確認し合ったりするでしょう。リアルでは出会うことのなかったファン同士の交流が生まれ、そのコミュニティ内で交流して、熱量が加速度的に高まっていくわけです。
メタバースには、そんな点と点をつないでいける可能性を感じています」(P175)
ファンを熱狂するためのコミュニティづくりに興味がある。そのために今まで取り組んでいなかった施策にチャレンジしたい。そう考えている人に、本書は新たなヒントを提示してくれるはずだ。