「らしさ」をデザインする――ステーションヘルスケア施設「DotHealth」編

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DotHealthの「らしさ」

 ブランディングの核である「らしさ」は、この理性的な強みと感性的な共感をどう橋渡しするかの中にあります。DothHealthのプロジェクトでは、開発メンバーと何度も議論を重ね、その「らしさ」を3つの「ブランドパーソナリティ」として定義し、全員が同じ理解で共有できるようにしました。

 1つ目は「Innovative(先進的)」です。DotHealthの根幹には、最先端テクノロジーをワンパッケージに集積して健康データを計測できる技術があります。駅という公共空間に設置されるサービスであっても、単なる簡易測定ではなく、たしかな先進性と技術に裏打ちされたものであることを強調する必要がありました。

 2つ目は「Accessible(開かれている)」。誰もが利用する駅にあるからこそ、健康管理に触れる敷居を下げ、日常に健康を取り込める存在であることを示さなければならないと考えました。特別な予約や時間をかけた移動を必要とせず、通勤や買い物の途中で立ち寄れる。そうした利便性こそがDotHealthの本質です。

 そして3つ目が「Understandable(わかりやすい)」です。いくら技術が優れていても、使いかたが難しかったり、専門用語が理解を妨げたりしていては、日常の習慣にはなりません。むしろ、日々の利用においては「すぐにわかる」「迷わず操作できる」ことのほうが重要です。インターフェースの直感性、空間全体の導線設計など、利用者がストレスなく体験できる工夫が求められました。

 この3つのパーソナリティから成る、DotHealthの「らしさ」は、実際の事業開発におけるコンパスとして機能し、さまざまなデザインの意思決定を導く基準となりました。

遠くから「鳥の目」で考える

 ブランドをデザインする上でまず大切なのは、生活者がどのようにその存在を「認知するか」という、受け手側に立った視点です。

 DotHealthの場合、公共空間である駅に設置されるサービスである以上、日常の移動動線の中で自然と目に入り、「あれは何だろう?」と意識されることがスタートラインになります(ブランドエクイティピラミッドでいう「認知/認識」のレイヤーです)。そのために私たちが意識したのが「鳥の目」でのデザイン、つまり100メートル先からでもひとめでわかるデザインです。

 駅構内はあまりに多くの情報で溢れています。広告、看板、案内標識、テナントのサイン、そして人々の動き。駅利用者は膨大な情報にさらされながらも、必要なものだけを瞬時に取捨選択しています。そのなかで「ヘルスチェックのための新しい施設」の存在感をどう際立たせるのか――。見た目を整えるだけではなく、駅という雑多な空間の中でどう認知され、記憶されるかをデザインすることでした。

 そこで私たちは、駅構内で「ブルーの塊=DotHealth」とだと直感的に認知してもらえるよう、DotHealthの施設全体をJR西日本のブランドカラーで統一しました。

 駅は日常的に多くの人が行き交い、視覚情報が溢れる空間です。そのなかで特定の施設をひとめで認識してもらうには、色や形といった強いアイコンを持つデザインが不可欠です。そこで、あえて空間の一部を「ブルーの塊」として染め上げることで、周囲から際立たせ、人々の視覚に強く残るようにしました。この「ブルーの塊」は、100メートル先からでも「あの青い場所だ」と理解できる視覚的ランドマークとして機能します。通勤や通学で駅を利用する人々にとって、日常の動線の中で自然と視界に入り、無意識のうちに記憶されていくことを意識したものです。

 また、このブルーはJR西日本が長年にわたり築いてきたブランドのイメージとも深く結びついています。公共交通機関として人々の移動を支え、信頼を積み重ねてきたこの象徴的な色を取り入れることで、初めて訪れる人にとっても「この施設は安心できる」という感覚を自然と呼び起こします。つまり、JR西日本ブルーは、「視認性」と「信頼感」というふたつの役割を同時に果たす色として機能するように設定されています。

 くわえて、「先進性」を体現するために、施設のインテリアはモダンでミニマルな構成とし、余計な要素を徹底的にそぎ落としました。空間の照明もクリアで均質なものを採用することで、医療的な清潔さと未来感を演出し、利用者が「ここなら清潔で正確な測定が行われる」と感じられるよう配慮しています。