いまは定義しない それでも“heyっぽさ”を体現するデザイナーたちがサービス統合をへて向かう先

いまは定義しない それでも“heyっぽさ”を体現するデザイナーたちがサービス統合をへて向かう先
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2020/02/26 08:00

 企業のデザイナーチームをリレー形式でつないでいく本連載。クックパッドからの推薦を受け取材したのは、コイニー社とストアーズ・ドット・ジェーピー社(以下、ストアーズ社)の経営統合により生まれたhey。今年の1月末に、この2社がそれぞれ提供していたサービスを「STORES」へ統合することでも話題を集めた。編集部が取材を行ったのがその2日前だったこともあり、今回はデザイナー組織だけでなく、サービス統合の裏側についても話を聞くことにした。コイニー社のデザインを束ねている松本さんと、ストアーズ社でその役割を担っている荒木さんの話を伺う中で感じたのは、“いま”のheyという組織のひとつのキーワードは、“あえて言葉で定義しない”ことではないか、ということだ。

heyを体現しているコーポレートサイトの存在

heyという会社には、専門のデザイナー部隊は存在しない。コイニー社とストアーズ・ドット・ジェーピー社(以下、ストアーズ社)のそれぞれにデザイナーが6~8名ほど籍を置いており、なにかheyとしてプロジェクトが立ち上がった時に、両社から有志を集め、横断的に取り組むのだという。

 親会社としてのデザイン組織はもたないものの、雇用形態上はheyに所属し出向という形でストアーズ社またはコイニー社で働いている人。そのどちらかのみに所属している人など、所属元は人によってバラバラだ。

「将来的には所属の境界なく動けるようにしたいとは考えていますが、heyの成り立ちが2社をひとつの会社にしよう、というところからスタートしているので、その際に都合のいい方法を考えた結果、このような形になったんですよね」(荒木さん)

ストアーズ・ドット・ジェーピー株式会社 デザイナー 荒木脩人さん
ストアーズ・ドット・ジェーピー株式会社 デザイナー 荒木脩人さん

 では、heyを構成するストアーズ社、コイニー社それぞれに所属するデザイナー組織にはどのような特徴があるのだろう。

「スキルの観点でいうと、とくにストアーズの場合、いわゆるマークアップと言われるHTML/CSS/JavaScriptのようなコーディングであれば、僕以外は全員デザイナーが担えるんですよね。これは僕のいままでのキャリアの中でも初めてのような気がします」(荒木さん)

「プロジェクトがキックオフする最初からデザイナーが入ることで、企画や試作を早めの段階でデザインに落とし込むことができるんですよね。そのため、プロジェクトのイメージを早期にビジュアル化することで意思決定のスピードを高めることに貢献できているというのは、全体の傾向としてあるかもしれません」(松本さん)

ヘイ株式会社/コイニー株式会社 リードデザイナー 松本隆応さん
ヘイ株式会社/コイニー株式会社 リードデザイナー 松本隆応さん

 組織図的にはデザインチームを持っていないheyだが、ブランドとして「新しい視点をいかに提示できるか」は意識していると松本さん。その代表格とも言えるのが、経営陣が全員アロハシャツを着てサイトに登場している、あのコーポレートサイトだ。

「あれって、いままでのコーポレートサイトの概念でいくとまったく違うアプローチだと思うのですが、そこが絶妙なんですよね。遠すぎる感じはしないけれど、でもちょっと半歩先を歩いているような。デザインとしても、そこを狙えるよう心がけています」(松本さん)

ビジュアルよりも言葉

 遠すぎず、でも半歩先の未来を見せる。それをほかのデザイナーに浸透させたり意識してもらうことは簡単ではないように思う。なにを心がけているのか尋ねると、ビジュアルよりも「言葉」だという答えが返ってきた。

「heyというブランドは『楽しそうにやっている人たち』という世界観を持っていますが、価値観が多様になってきている中でそれを押しつけるのってあまりかっこよくないよね、というマインドもベースにあります。

たとえば1年ほどまえに立ち上げたウェブメディア『hey MAGAZINE』のコンセプトメッセージは『やあ、よく来たね』。自分たちの持っている価値観に共感してくれたら受け入れるという、少し閉鎖的なイメージもあるけれどオープンでもあるっていう微妙なラインを、このコピーは上手く表していると思うんですよね。その空気感というか、コンセプトのニュアンスを言葉で共有して、デザインやディテールなどに落とし込んでいくイメージです」(松本さん)

「hey MAGAZINE」のコンセプトメッセージ

「hey MAGAZINE」のコンセプトメッセージ

「『heyっぽい』、『heyらしさ』というワード自体は話の中でもよく出るんですが、それを言語として定義することは、おそらくしていない。言葉だけに頼らず、heyっぽいかどうかの判断をしているような気がします。

たとえば面接をするときも、そこがマッチするかどうかはしっかり見ます。というのも、今は組織の成長速度を重視するために、『heyっぽさ』を擦り合わせるための時間を十分に確保することが正直難しい。『heyっぽいか、っぽくないか』というのは、それぞれのバックグランドや価値観による部分が大きいと思うので、スキルセットはすごくマッチしていても『っぽさ』を重視して、採用を決めることもあります」(荒木さん)

 言葉がもつ「空気感」や「ニュアンス」。高いスキルを持っているかよりも、いまは『heyっぽいかどうか』を大事にする。そしてそれを言語化しない。ふわっとしたまま扱う。

「heyが掲げている『Just for Fun』も、そもそもそういうワードだと思うんですよね。それぞれ楽しさがあって、それは違うものかもしれないけれど、それをあえて定義せず、楽しさのまま扱えるかどうか。それが大事だと思うんです。

何か作ったときに『これはheyっぽくない』という意見がでて、それがなぜかという説明を求められたり、heyっぽいって何?みたいなことを毎回考えたりするのですが、いまは『これがheyらしさ』と定義するのではなく、都度話していくほうが合っているような感じがしています。

むしろ、しっかり言語化してはダメだなと思っているところもあるかもしれません。僕らのいまの段階では多分、そういうことじゃないんだよなという」(荒木さん)

 あえて「heyらしさ」を定義しない。それでもチーム全体が前へと走り続けているのは、「heyっぽさを感じるかどうか」が採用におけるひとつの基準になっているからだろう。そもそも、その会社らしさを定義するべきか否か。会社の成長フェーズに応じた判断が重要なのだ。

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