拠りどころは行動・発言・外見 コーポレートブランディングに不可欠な3要素を紐解く

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 日系LCCや外資系ハードウェアベンチャーの創業期にインハウスの広報およびブランディングストラテジストとしてコーポレートブランディングの0から1を手掛けてきた、Ankerの瀧口智香子さんによる本連載のテーマは「コーポレートブランディング」。第2回となる今回は、コーポレートブランディングの要素を分解しながら、デザインの役割とインハウスデザイナーの重要性についてお伝えしていきます。

 約1ヵ月ぶりにお目にかかります、瀧口です。前回はブランディングにまつわる基礎知識を整理し、出発点を揃えるべく「コーポレートブランディング」という言葉を定義しました。

コーポレートブランディング

企業の目的や姿勢を起点に、その企業ならではの独自性や優位性を認識させ、ステークホルダーからの応援を獲得、蓄積していく活動

 ここで言う「応援」とは、ステークホルダーの行動の動機づけとなる共感信頼です。では、その共感や信頼は何から、どのように育まれるのでしょうか。今回は、コーポレートブランディングをざっくりと要素分解しながら、デザインの役割とインハウスデザイナーの重要性についてお話しさせていただきます。

コーポレートブランディングを3つの要素に分けてみる

 ビジネスの現場で私たちが便利に使っている言葉や概念(とくに横文字)には、ふと立ち止まって考えると、どうにも輪郭を捉えきれなかったり、正体が掴めなかったりするような厄介なものが少なくありません。

 「ブランディング」はその最たる例ですが、そんなときは、自分にとって身近な物事やシチュエーションに落とし込むと、有意義な近道が見つかるかもしれません。コーポレートブランディングの要素を探るにあたっては、“初めて人と会ったとき”をイメージすると効率的です。

 普段の生活で誰かの個性に気づいたり、また自分らしさを表現しようとしたりするとき、その拠りどころとするのはおおかた、【行動】・【発言】・【外見】の3つではないでしょうか。何にいちばん敏感にセンサーが働くかは人それぞれですが、どれも他者との接点になるもので、一回の接触時間の長さに関係なく印象を左右することがあります。

 その印象がポジティブなものであれば、回数や年月を経て共感や信頼は積み上がり、ネガティブであれば共感は削がれ、信頼も損なわれていきます。印象が残ればまだマシで、いくら爪痕を残したくとも相手の記憶に爪先すら引っかからないこともよくあります。そしてこの3つは、三者択一ではなく、それぞれが相関しながら三位一体として個性を醸します。これらは個人しかり、企業しかりです。

 一方、個人と企業では違いもあります。人の場合はどう動き、何をどのように話し、どう着飾るかは、ある程度自分でコントロールできるのに対して、企業はそれぞれが独立した機能や役割としてわかれ、その1つひとつに多くの人が関与します。機能や役割の分化は利害を生み、担い手が異なることは調整を生みます。そしてこの利害や調整は、コーポレートブランディングにとって、避けることのできないボトルネックであったりします。

【行動】は、望むと望まざるに関わらず日々蓄積される企業活動そのもの

 個人で言うところの【行動】は、企業に照らしてみると企業活動そのものです。何を大切にし、何を目指し、そこから何を発想してどのような行動に移し、そしてどのような結果を出すか――対外的な影響の大小こそありますが、望むと望まざる、都合の良い悪いに関わらず、【行動】は日々変えようのない事実として蓄積されていきます。

 たとえ途中の判断や、形として出てくる商品・サービスが似通っていたとしても、これら一連のプロセスすべてが寸分違わず同じ企業は存在しません。また、一連のプロセスのどの部分に重きが置かれるかも企業によって異なります。同じでないということは、そこにはその企業ならではの独自性や優位性を見出せる可能性があります。

 蓄積していく企業活動と企業を取り巻く環境を鳥瞰し、何を「らしさ」の源泉として見出し、どのような流れに仕立ててステークホルダーへ届けるかはブランディング戦略の核であり、ブランディングストラテジストの腕の見せどころです。

 ビジネスのスピードが加速している昨今、エッジを立てようと流れを細かく決めすぎてしまうと柔軟性を欠いて戦略倒れになってしまい、機を逃すと他社に先を越され理想的な流れが作れない、という不運に見舞われます。また立派な川ばかりを意識しすぎて、近くにある自分だけの筋の良い水源を見逃すこともあります。

 ちなみに、企業活動にかかる一連のプロセスの中でもとくに独自性が出やすいのは、何を大切に考えているか/何を目指すかという部分だと個人的には思います。企業によっては、それが創業者の原体験に基づいている場合もあれば、集まった仲間同士の共通の価値観である場合、企業が存続するなかで自然とできあがった結晶の場合もあります。これらは、経営戦略において「ビジョン」や「ミッション」、「バリュー」として言語化されます。ただし、独自性があるからと言ってそれが大きな共感や信頼に結ぶかどうかは別の話です。

 コーポレートブランディングと言うや否や、「ロゴマークが…」、「広告が…」と一足飛びで方法論に行きがちですが、その要素に【行動】が含まれる限り、コーポレートブランディングは経営戦略の一環として描かれるべきです。

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