ブランド“もどき”はすぐに見破られる 豊かなクリエイティブワークのためのCIとの付き合い方

ブランド“もどき”はすぐに見破られる 豊かなクリエイティブワークのためのCIとの付き合い方
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 日系LCCや外資系ハードウェアベンチャーの創業期にインハウスの広報およびブランディングストラテジストとしてコーポレートブランディングの0から1を手掛けてきた、Ankerの瀧口智香子さんによる本連載のテーマは「コーポレートブランディング」。第3回は、コーポレート・アイデンティティの本質とそれをデザインに活かすためのヒントについてお伝えしてします。

 お久しぶりです、瀧口です。

 コーポレートブランディング戦略は経営戦略の一つで、デザイナーは経営を左右する責務を負ったひとり――。こんな言葉を添えて、前回はコーポレートブランディングにおけるデザインの役割とインハウスデザイナーの重要性についてお話をさせていただきました。今回はもう少し実業務に踏みこみ、コーポレートブランディングに関わるデザインを考える際のヒントを綴っていきたいと思います。

 と言っても、私自身はデザイナーではありません。本記事で挙げているのはコーポレートブランディングの戦略立案とそのマネジメントの一端を担う立場から、「ココは押さえておいて欲しい」と思っている推奨ポイントです。デザイナーの方にとっては意外な点もあるかもしれませんが、そのギャップを含めて参考になれば幸いです。

ブランドもどきはすぐバレる

 コーポレートブランディングは、【行動】=日々の企業活動そのもの、【発言】=広報などの対外コミュニケーション、【外見】=ビジュアル表現の3要素が相関しながら成り立つという話をしましたが、もしかしたら、この要素に「行動」が含まれていることに多少なりとも違和感を覚えた方もいたのではないでしょうか。

 それもそのはず、連載1回目ではコーポレートブランディングを、「企業の目的や姿勢を起点に、その企業ならではの独自性や優位性を認識させ、ステークホルダーからの応援を獲得、蓄積していく活動」と定義しており、「認識させる」という行為はPush型のアクションである一方、広く深い範囲に及ぶ【行動】は相手が覗きこみに来ないと見えてこない(覗きこんでも見えない場合もある)、Pull型の要素だからです。

 かく言う私も実は、コーポレートブランディングはPush型のアクションだけで作れると信じていた時期があります。コミュニケーション分野特有のパワフルさと華やかさに勝手に期待値を上げ、どんな話題でも広報が巧くまとめればすり合わせは可能だし、プロモーション次第で理想的なブランド像は作れる。そしてそれが対外コミュニケーションを担当する者のスキルなのだ、と。

 この考えもすべてが間違いというわけではありません。しかし、強引なすり合わせや力業のプロモーションを何度か経験して気づいたのは、Push型のアクションだけでブランドを構築しようとするには限界があり、本当に強いコーポレートブランドを作ろうとするなら、【行動】が組織の“核”に通じ、【発言】や【外見】がそれをPushするという形でないと厳しいということでした。

 企業はたくさんの人の集合体です。数十~数千、場合によっては数万という数の人々が役割を分担し、相互に関係し合いながら絶え間なく【行動】が起こされます。もし彼らが共通の“核”を持たず、異なるベクトルで動いていたら、結果として起きてくるさまざまなアウトプットが一定方向にまとまるはずがありません。

 ましてや今は、求めようとすればステークホルダー個々人が、さまざまな情報に気軽に触れられる時代です。見かけだけを取り繕ったブランドもどきはすぐにその正体を見破られ、その浅はかさから信頼に傷がついてしまうことにもなりかねません。もちろん、いくら【行動】がしっかりしても【発言】や【外見】がそれを適切に補えるものでなければ、コーポレートブランドの確立というゴールへは辿り着けないでしょう。今の時代だからこそ、なおさら【行動】・【発言】・【外見】は三位一体である必要があるのです。

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