前回の記事でお伝えしたのは、Sansanのクリエイティブにおいて重要視しているのは「自分たちの想いを表現し、軸を通すこと」であるということ。なるほど確かに、と思いながらも、ことプロダクトデザインの目線から考えると、そこには「自分たち」だけでなく、「顧客でありユーザー」が存在することをもちろん忘れてはいけません。
Sansan株式会社はおもに法人向けクラウド名刺管理サービス「Sansan」と名刺アプリ「Eight」というふたつのプロダクトを軸に事業を展開しています。
「Sansan」は、名刺をスキャナーやスマートフォンアプリで読み取ることで、独自のオペレーションシステムによって名刺情報を正確にデータ化。AI技術により、企業内の人脈を管理・共有することが可能になるほか、社内の連携を促進する機能や顧客データを統合・リッチ化する機能を備えており、ビジネスのはじまりを後押しする「ビジネスプラットフォーム」です。
今回は「Sansan」のサービスを例に、プロダクトデザインにおいて私が普段意識していること、考え方などを書いていきます。Sansanの事例が、少しでもみなさまのお役に立つことができれば幸いです。
「使いやすさ」と「心地よさ」を追求する
プロダクトにまつわるデザインには、UIとUXというふたつの概念が存在します。このふたつの要素は密接に関わっており、デザインをするうえで切り離すことは難しいため並列で用いられることも多いですが、役割は明確に異なります。私はこれらを、以下のように考えています。
UI(User Interface)デザイン
ユーザーとサービスの接点をデザインし、「使いやすさ」を追求する。ユーザーの視覚/聴覚/触覚に触れる部分なので芸術的な要素があります。
UX(User Experience)デザイン
ユーザーがサービスを使用したときに得られる体験そのものをデザインし、「心地よさ」を追求する。一方こちらはユーザーが感じたことすべてと捉えられるので目に見えない部分、例えば注文したら商品がすぐ届いてうれしい、届いた商品がキレイにパッケージされていてテンションがあがった、なども含まれます。
これまでのデザインでは、見た目のスタイリング、つまり“キレイ”なものをつくることがデザイナーの責務とされることが多い印象でした。
ですが、最近は社会やビジネス上の課題を解決すること、もしくは新しい価値を生み出す行為そのものが「デザイン」という言葉が意味するところとなり、そういった役割がデザイナーにも期待されています。もはやビジュアルデザインを通じたコミュニケーションは、課題解決や価値創出を実現するための手段のひとつでしかありません。
そういったビジネス上の課題解決を行う場合でも、デザイナーはビジネスに精通していないこともまだまだ多いため、その分野に特化したメンバーとチームを組み、“一緒に”デザインを進めていくケースもあるでしょう。
つまり、これからのデザイナーは自らが手を動かしビジュアルや体験をつくることだけではなく、さまざまな職種のメンバーとのコミュニケーションのハブとなり、ファシリテートしていく能力が求められているのです。
これは、課題解決の場面だけでなく、プロダクトの体験設計、すなわちUXデザインにも当てはまります。その際に大切なのは、デザインの目的はなにか。誰にむけてつくるのか。ユーザーがどんなストーリーでサービスと接点をもつのか、といったことを、チームで“一緒に”考えること。
そうやって導き出された体験を、どのようなインターフェースとして提供していくのか。この詰めの作業はUIデザイナーが担当する場合が多いかもしれませんが、その過程においても、“チーム”で考える必要があるのです。
IDEOの創設者であるTim Brown氏がTEDで講演をした際に「デザインはデザイナーだけにまかせるには重要すぎる」という言葉を残していますが、まさにそのとおりだと思います。
リソースは有限なので、使われないものや意味がないものを作ることは避けなければなりません。そのためには、上記のような営みを経ずに良いUXを生み出すことは難しいですし、その一連の営みそのものが体験設計、つまりUXデザインであると私は考えています。