メルカリの研究開発組織「mercari R4D(アールフォーディー)」は、東京大学大学院工学系研究科の川原圭博教授が総括するJST ERATO川原万有情報網プロジェクトとの共同研究「風船構造のパーソナルモビリティpoimo(ポイモ)」に関する論文が、2020年10月に開催される国際会議「UIST 2020」にて採択されたことを発表した。
今回採択された論文「poimo:Portable and Inflatable Mobility Devices Customizable for Personal Physical Characteristics」は、ユーザーインターフェース技術などを扱う研究分野であるヒューマン・コンピュータ・インタラクション(HCI:human-computer interaction)の国際会議「UIST 2020」で発表する。
主要部品を風船構造に置き換えたまったく新しいパーソナルモビリティの提案と、ひとりひとりに合わせて形状をカスタマイズできる設計手法を初めて提案した点が評価されたとのこと。空気を抜いて折り畳むことができ、軽くてやわらかい風船構造を使った同ソリューションは、パーソナルモビリティの新分野開拓を目指す。
同論文は東京大学新山龍馬講師らを中心とし、同社からはリサーチャーである山村亮介氏を含めた8名で共同執筆し、査読付き論文として採択された。
発表内容のポイントは、次のとおり。
- 乗るポーズをとるだけで、ひとりひとりに合わせて設計できる風船構造のパーソナルモビリティpoimoを開発。空気を抜けば丸ごと折り畳むことができる電動バイク型と手動車いす型を試作した。
- 車体や車輪が風船構造で作られた乗り物を新しく開発したことで、乗り物を1台ずつカスタムメイドすることが初めて可能に。新規開発した設計ソフトウェアによって、誰もが容易にパーソナルモビリティを設計できるようになった。
- 空気を抜いて折りたたむことができ、軽くてやわらかい同ソリューションは、パーソナルモビリティの新分野を開拓する。個々人に合わせてカスタムメイドできる利点を活かし、誰もが自分に合った移動手段を獲得できるインクルーシブな社会の実現に貢献する。
近年、MaaS(Mobility as a Service)をはじめとしてさまざまな移動の概念が提唱され、それに呼応するように電動スクーターや電動立ち乗り二輪車など、動力を搭載したひとり乗りの移動手段であるパーソナルモビリティが数多く登場。しかし、そのような従来のモビリティの多くは重くて大きいため、使っていない時の可搬性や収納性は良くない。また主としてパイプや板などの剛性の高い構造が用いられるため、折り畳んでもかさばり、衝突安全性への懸念や個々人に合わせたカスタマイズの難しさなどの課題があった。
今回開発した「poimo(ポイモ:POrtable and Inflatable MObilityの略称)」は、車体から車輪まで多くの部分を風船構造で構成した、乗り心地のよい大きさと可搬性を兼ね備えた新しいパーソナルモビリティ。軽くてやわらかい風船構造の特性を活かし、普段は小さくたたんでしまっておき、必要な時に取り出して膨らませるという、これまでにない使い方が可能となる。
このようなやわらかい乗りものを実現するため、同研究チームは、従来は硬質な素材で構成されていた車輪やステアリングなどを、風船構造で製作する手法を開発した。浮き輪のような単純なビニール風船では強度が不足するため、「ドロップスティッチファブリック」と呼ばれる高い空気圧に耐える高強度の布地を使用している。
風船構造はこの布地を切り抜いて自由な形で製作できるため、カスタムメイドに適する。ドロップスティッチファブリックで作られた車体が、軽量であるにもかかわらず人間の体重を支えられる強度を備えていることを確認。ドロップスティッチファブリックは布と樹脂の複合素材で、簡単にパンクすることはないとのこと。
さらに同研究では、ユーザーが自分の身長や姿勢に合わせた大きさと形状の乗り物ものをデザインできる専用ソフトウェアを開発。たとえば、電動バイク型のpoimoを設計する場合、まずユーザーは作りたいバイクをイメージしながら、椅子などを使ってそれに乗るポーズを取る。ソフトウェアは、そこから姿勢の3次元情報を抽出し、ユーザーのポーズに合わせた形状・大きさの乗り物を自動的に設計して3次元モデルとして画面に表示。提案されたデザインをもとに、ユーザーはハンドルや座席の位置などをさらにカスタマイズすることができる。
このとき、強度や安定性、操作性が損なわれないように、設計パラメータはソフトウェアによって自動調整される。調整の済んだ最終的なデザインは、そのまま発注可能なデータとして出力されるという。
提案手法を用いて、同研究チームは、電動バイク型と手動車いす型のpoimoを実際に複数台試作。電動バイク型は、車輪を含めて7個のインフレータブル構造を組み合わせて作られている。小型ブラシレスモータとリチウムイオン電池で駆動され、最高速度は6km/h。1回の充電でおよそ1時間動作する。
総重量はおよそ9kgで、普通のバイクと同程度のサイズと車輪径であるにも関わらず、折りたたみ電動スクーター並の重さを達成した。ハンドル、ベアリング、モータ、バッテリー、電子回路は風船構造にすることができないが、小型・軽量化を行い、折りたたんだ時にかさばらないように工夫したとのこと。
手動車いす型は、車輪を含めて5個のインフレータブル構造を組み合わせて作られている。手動なのでモータやバッテリーは搭載しない。総重量はおよそ6.5kgで、普通の車いすの重量の約半分となっている。カスタマイズの一例として、前輪が長く突き出した、スポーツタイプの手動車いすも試作した。