広島からつかんだ『New York Times Magazine』の表紙
広島県呉市出身のイラストレーターとして活躍するカミガキさんは、広島に事務所を構えるIC4DESIGNの代表として制作活動を営んでいる。同氏のイラストは、緻密な書き込みによる独自の世界観が魅力的で、『New York Times Magazine』の表紙や、全米規模の鉄道の祭典である「National Train Day」のポスターに採用されたこともある。
フリーランスとして活動を始めたのは1998年ごろのこと。カミガキさんのキャリアはイラストレーターではなく、デザイナーからスタートしたものであったが、2006年にIC4DESIGNを設立するまでには紆余曲折があった。
「絵を描く人になりたいと最初に思ったのは小学生の頃でした。でも、はじめに就職したのは、地方のゲーム会社。その会社は東京にも営業所があったからという、ただ漠然と東京に行きたかったことが就職の理由です(笑)。しばらく働いたものの、東京に異動になる前に辞めてしまいデザイン事務所に転職しました。
ちょうどその頃バブルが弾け、その会社も経営が悪化。覚えたデザインスキルを武器に、さらに広告代理店へと転職し、その後“デザイナー”として独立しました。ただ、そのころもまだイラストレーターの夢は諦めていなくて、デザイナーとして働きながら、夜にイラストを制作するような生活を送っていました」
そんな努力のすえ、2009年には自身のイラストがNew York Times Magazineの表紙を飾った。これをきっかけに、カミガキヒロフミの名前は徐々に知られるようになる。同誌掲載のきっかけについて、カミガキさんはこう話す。
「いつか東京で成功したいという思いがあったので、広島で仕事をしながら東京の企業にも営業していたんです。でも、広島からだと営業を東京にかけるか海外にかけるかって、感覚的には手間がそんなに変わらなかったんですよね。じゃあ『ニューヨークにも営業しちゃえ』と――。英語ができるスタッフに電話をかけてもらって、そこからメールを送るなど売りこみをしていました」
New York Times Magazineのアートディレクターの目に止まったのは、そんなある日のことだったそうだ。
「僕らの世代は、かの有名なテレビ番組の『ニューヨークにいきたいか!?』というセリフを見て育ちましたからね(笑)。成功体験の象徴としてはとても憧れの場所でした。だから表紙になると聞いた日には、人生が変わるだろうなと。
でも広島でNew York Times Magazineを読んでいる人なんかそんなにいないですから、雑誌が刊行されたあとも国内で急に仕事が増えたりとかは全然ありませんでしたよ。ファンレターが届いたり、インタビューの依頼が来るようになったのも、もう少し経ってからでした」