仕事でもオリジナリティを発揮できるのか 自己表現やキャリアの重ねかたについて考える

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2020/09/04 08:00

 本連載のテーマは「ビジネス×アート」。コンサルティング会社に勤務するかたわら、アートの作品制作に関するワークショップへの参加、イベント運営などを積極的に行う奥田さんとともに、アートとの関わりを探ります。第3回のテーマは、「仕事における自己表現とキャリア」です。

 初回第2回では、アートはビジネスにおける思考を豊かにし、新しい発想のきっかけを与えてくれることについて述べてきた。第3回ではアートにおける「表現」をテーマに、仕事における自己表現やキャリアについて考えたい。

なぜ表現することは難しいのか

 ビジネスパーソンは日頃、どのくらい自分を表現しているのだろうか。営業トーク、上司への報告、発注者への依頼などコミュニケーションする機会や相手に何かを伝える場面は多数存在する。しかし多くの場合、これらに求められることは正確性とスピード。いかに無駄なく効率的に進められたのかがビジネスでの評価であることがほとんどだ。クリエイターも、発注者の意図をどこまで忠実に再現するかが必要であるように思う。

 これらの仕事の進めかたが間違っているわけではない。ビジネスが拡大・スケールしているときにはとても有効なやりかただ。一方、0→1で何か新しいことを創造するときに大切なのは、周囲が見えていない課題やニーズに気づき、それをかたちにすること。正確性を求められてきたがために、クリエイターやビジネスパーソンのなかにはこの0→1のプロセスを苦手としている人は多いのではないだろうか。

Art Abu Dhabi 2016で著者が撮影したBasquiat氏の作品 (筆者撮影)
Art Abu Dhabi 2016で著者が撮影したBasquiat氏の作品

 さかのぼってみれば、我々が小学校から受けてきたのは、間違いをしないことや正しい答えを導くことを前提とした教育であったように思う。大学受験などの筆記試験では、正確かつ速く問題を解くことが求められる。美術や音楽でも同様だ。美術の授業では、絵が上手く描けるかどうか重要であったし、音楽の授業ではリコーダーで曲を間違いなく演奏できることが評価のポイントだった。もしかしたら、多く日本人は”自分らしさ”を表現する方法をこれまで学んでこなかったのかもしれない。

オリジナルを描く一流アーティスト

 では、アーティストはどのように作品で”自分らしさ”を表現しているのだろうか?アーティストの村上隆氏は著書『芸術闘争論』(幻冬舎、2010年)で、現代美術における評価は、構図/圧力/コンテクスト/個性という4つの要素で決まると述べている。

 私が前職でアートフェアの仕事をしていたとき、フィギュアスケートの宇野昌磨選手の祖父で画家の宇野藤雄氏にたくさんのことを学んだ。

「日本には富士山を描く画家は多くいるが、富士山を描くなら北斎の富士を超えないといけない。同様に植物の絵を描いている作家は、ゴッホのヒマワリを超える作品を作らないといけない」

 それが宇野氏の口癖であった。

 そう、一流と言われるトップアーティストは、作品を見ただけで、誰が描いたのかがすぐにわかる。マルク・シャガール、クロード・モネ、アンディー・ウォーホル、ジャクソン・ポロックなど歴史に残る作品には彼らのオリジナリティがある。

World Art Dubai 2017で著者が撮影した宇野藤雄氏の作品
World Art Dubai 2017で著者が撮影した宇野藤雄氏の作品

 もちろん、彼らのような歴史に名を残すアーティストはごく一部。この事実を一流とそれ以下の才能の差と言えばそれまでなのかもしれない。しかし、アーティストとして成功するためにはいくつか障壁がある。

 そのひとつが経済的な問題。作品販売のみで生活しているアーティストはほんのわずか。そういった人であっても、パトロンと呼ばれる支援者向けに作品を描いているのは今も昔も変わらない。自分らしさの表現よりも、経済的理由を優先しないといけないこともあれば、売れる作品を求めるがあまり、自分の個性や表現を見失ってしまうことがある。

 また、自分の世界を持っているアーティストやクリエイターは、その世界に閉じこもってしまうことがある。自分の作品が理解されないのは、世間や時代が追いついていないからと考え、いつまでも認められず、いつの間にか諦めてしまう。

 クリエイターやビジネスパーソンも似たような状況に直面しているように思う。自分が納得しない仕事であっても、日々の生活のために、自分らしさよりも目の前のタスクを粛々とこなすことを優先させることもあるだろう。自分なりに考えを持っている人でも、それが周りに理解されずに職場に失望し、転職を選ぶこともあるのだ。

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