アート作品の価値を高める人々から学ぶ、これからのキュレーション

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2020/10/01 08:00

 本連載のテーマは「ビジネス×アート」。コンサルティング会社に勤務するかたわら、アートの作品制作に関するワークショップへの参加、イベント運営などを積極的に行う奥田さんとともに、アートとの関わりを探ります。第4回では、ギャラリストやキュレーターといったアーティスト以外のステークホルダーから、ビジネスに活かせるポイントについて考えていきます。

 これまで、アート×ビジネスという視点で、自分なりの考えを述べてきた。

 さまざまな反応もいただいており、それにより自分の考えが洗練される。しかし、話が噛み合っているようで、噛み合っていないような歯がゆい感覚も同時に感じる。その原因は、それぞれがアートという言葉に対して想起するイメージが異なるからだ。

 たとえばビジネスの文脈だと、ITやシステムという言葉はそれに近い粒度である。システムと一言でくくることは間違っていないのだが、AWSのようなクラウドのインフラを担っている人もいれば、HTMLなどウェブページを担当している人もいる。Excelなどの作業をITの仕事ととらえる人もいるだろう。当然、システムやITという言葉だけでは、ビジネス上の会話は成立しない。

 アートという言葉も、一言でまとめることが難しい。モネやルノワール、ゴッホなどの西洋画をイメージする人もいれば、越後妻有トリエンナーレのような地域に根差した芸術祭をイメージする人もいる。また、美しいデザインをアートだと感じる人ももちろんいる。「印象派」、「現代美術」、「ファインアート」などアートをくくる言葉は存在するが、多くの人が使いわけられるまでは浸透はしていない。

 では、カテゴリー化をきちんとするべきかというと、それもまた簡単ではない。ビジネスの世界でも「カオスマップ」という業界の情勢を表す業界地図が制作される。可視化されわかりやすい一方、領域が違う/掲載されていないといった声もあがるようだ。複雑なものをわかりやすくするというのはとても難易度が高い。

 アートでカオスマップに似たものを制作するとリアルカオスマップになるだろう。これまでの既成概念を打ち破る側面がアートにあるからだ。できたとしても、すぐに壊されてしまうだろう。人によってそもそも考えていることが違うので、アートの話をすることは難しいのだ。

 前置きが少し長くなったが、今回はギャラリストやキュレーターという視点からビジネスを考える。そのことを念頭に後続を読んでいただけると幸いだ。

アートの値段はどのように決まるのか

 アートの世界では、大きくふたつのマーケットが存在する。「プライマリー」と「セカンダリー」である。前者は、ギャラリーやアートフェアでアーティストが新しい作品を発表することが多く、後者は、クリスティーズやササビーズのようなアートオークションがそれに該当する。オークションでは、すでに有名なアーティストを取り扱っていることが多く、作品の価格もその評価と比例する。一方、プライマリーでは新人アーティストなど、これから可能性を秘めたアーティストが、日々ギャラリーやアートフェアで作品を発表し続けている。

 ビジネスの世界で言うと、プライマリーはスタートアップ、セカンダリーは上場企業に近いかもしれない。企業であれば、財務諸表や競合・市場分析することで、企業価値を算出する。その企業価値を高めるために、経営者は売上拡大、費用削減を努力している。

 では、アートの価値はどのようにマーケットで決まるのだろうか。たとえば、一般的な商品・サービスの価格はおもに「品質」、「流通量」、「ブランド」の3つで決まる。これらをアート作品で言い換えると、作品の価格を決めるのは下記の要素となるだろう。

  1. 作品の状態
  2. 希少性
  3. 芸術的価値

 1と2は単純に質と量の話であり、限定のスニーカーなどを想像するとイメージしやすい一方、3については抽象的でイメージしにくい。私は、芸術的価値とは「その作品の意味やコンテクスト」だと思っている。つまり、価値を高めているのは知識、という考えだ。

 ある有名ブランドは、原価の10倍以上の価格で販売しているという話を聞いたことがある人もいるかもしれない。このようなブランドは、プロモーションに投資をして、世界観を演出してブランド力を高めているが、ネガティブな見方をすると、世界観(意味・コンテクスト)にお金を払っているというわけだ。アート作品も、材料や画材の費用がおもな原価。購入者も、絵具やキャンバスを購入しているわけではなく、その作品の芸術的な価値を購入しているのだ。

 また、その価格を定めるためには、共通の深い知識とそれを保証する権威が必要となる。たとえば、ブルゴーニュのワインは土地や年代によって価格が大きく異なるのは、土地や年代による“違い”を言語化し、意味やコンテクストを作り出しているからだ。アートでは、その役割をギャラリスト、アートオークション、キュレーターなどが担っている。アートの価値を言語化し、これまでの作品との違いを意味づけすることで、アートマーケットを形成しているのである。

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