交通標識の書体は?書体とフォントの違いって? 街なかにあるフォントからその役割を考える

 文字やフォントは、すべての人にとって、コミュニケーション上、欠かせない存在であり、情報を正確に伝えるためのユーザーインターフェースです。「フォントおじさん」としても知られるソフトバンク・テクノロジーの関口浩之さんによる連載「ゼロから学ぶフォントの話」は、文字の歴史から始まり、フォントの役割、文字の組みかた、紙とウェブ、Webフォント、フォントの未来などを取り上げるとともに、コンテキストに応じた書体の選びかたを考察し、実例をもとに効果やメリットなどを紹介していきます。第1回では「文字の歴史を学ぶ」をお伝えしました。第2回では「フォントの役割」について考えていきたいと思います。

交通標識「止まれ」の看板で使われている書体とその理由

 普段の生活の中で、文字はなくてはならない存在です。行き先を教えてくれる案内板、お店の看板やお品書き、ポスターや中刷り広告、テレビ番組のテロップなど、文字は必ず存在します。

 ではここで質問です。交通標識「止まれ」の看板の文字は、どんな書体が使われているか知っていますか? 

 答えは丸ゴシック体です。下に正解の写真があるので、わかった方もいるかもしれませんが、過去3回のデザイナー向けのフォントセミナーで正しく回答できた人は1割程度でした。「明朝体ではなくゴシック体」というところはわかっても、「丸ゴシック体」まで想像できたかたは少なかったです。

 では、下の写真をご覧ください。それぞれ左上は正解の丸ゴシック体、右上は角ゴシック体、左下は明朝体、右下は古印体の書体で、ためしに看板を作ってみました。どの看板も「止まれ」と読むことはできますが、書体から受ける印象は異なるのではないでしょうか。

正解の写真と、角ゴシックと明朝体と古印体で作った「止まれ」の標識を並べてみた
正解の写真と、角ゴシックと明朝体と古印体で作った「止まれ」の標識を並べてみた

 ちなみに、古印体の「止まれ」は、ちょっと怖いかもしれませんね(笑)。思わず、ブレーキを踏んで止まれるかもしれませんが……。

 最初に道路標識が作られた当時は、看板職人が手で標識に文字を書いていましたが、交通標識の書体にデジタルフォントが導入される際、なぜ「角ゴシック体」でなく「丸ゴシック体」になったのでしょうか。

 それは、文字を筆で書く際、始筆と終筆の処理をきちんと直角にしなければならない角ゴシック体よりも、丸ゴシックを制作するほうが楽だから、との理由だったようです。道路標識の書体選定は、作業効率の観点で、丸ゴシック体になったといわれています。

 では、次の質問です。病院名や病院施設内の案内板の書体は、どんな書体が多く使われているか、意識して見てみたことはありますか?私が近所の病院で観察した結果、8割が「丸ゴシック体」でした。ここでも「丸ゴシック体」が人気です。

病院で使用される書体は何が好まれるのか(著者撮影)
病院で使用される書体は何が好まれるのか(著者撮影)

 20ヵ所での調査結果は、丸ゴシック体が16件、角ゴシック体が2件、デザイン書体が2件でした。最近、開業した病院も丸ゴシック体が多く使われているので、古くからの看板文字に由来しているわけではないと思いました。私の解釈ですが、「病院は怖くないよ」「安心して診察室に入ってくださいね」「明朝体は先が尖っている書体なので注射器を想像しちゃうかも。じゃあ、優しさを感じる丸ゴシック体にしよう」などが理由なのかもしれません。

 いろいろなフォントで、「胃・内視鏡検査・手術」という文字を作ってみました。「怖そうなフォント」「痛そうなフォント」「子供らしいフォント」「女子力向上しそうなフォント」「ゆるかわフォント」「オールドフォント」を使ってみました。どのフォントで書かれていたら、手術を受けたいと思いますか?

書体の種類は上から順番に、万葉古印ラージ/コミックレゲエ/くろかね/ぶどう/パルラムネ/筑紫アンティークL明朝
書体の種類は上から順番に、万葉古印ラージ/コミックレゲエ/くろかね/ぶどう/パルラムネ/筑紫アンティークL明朝

 いちばん上の古印体という書体は、「怖いフォント」の代名詞ですが、使いかたによっては怖いフォントではないのです。印鑑では、古印体(こいんたい)、篆書体(てんしょたい)、印相体(いんそうたい)などが使われています。赤い丸の中に、赤字の古印体で名前を表現すると、怖い書体には見えないかと思いますので、ぜひご自身の印鑑を見てみてください。

 人間の脳は目に入ってくる映像を見たときに、過去の経験則から「好きか嫌いか」「どんな情感なのか」を0.3秒ほどで瞬時に判断しているといわれています。脳が感じとる要素として、配色や背景テクスチャや写真などがあります。また、使われている書体がその文脈において適切に選択されているか、また、文字が読みやすく組まれているかなどもとても重要な要素なのです。

 読者のみなさんもどんな書体が使われているかを意識して街を歩いてみると、景色がいつもと違って見えるかもしれません。

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