「ビジネスの理解」と聞いて苦しくなるデザイナーにおくる、ビジネスとデザインをつなげるためにできること

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 本連載のテーマは、「事業会社で働くデザイナーが事業の成長に貢献するためのスキルの伸ばし方」。解説してもらうのは、プログラマのための技術情報共有サービス「Qiita」をはじめとしたサービスで、戦略設計からUI作成、フロントエンド実装に携わっている綿貫佳祐さんです。第2回では「ビジネスとデザインのつなげかた」についてお伝えします。

 こんにちは。Increments株式会社の綿貫(@xrxoxcxox)です。

 前回の記事ではデザイナーがスキルを掛け合わせるにあたって、軸としてデザインスキルを掘り下げるというテーマでお話しました。今回はビジネスとデザインを繋げるためにできることについて、お伝えしていきたいと思います。

デザインスキルを100%発揮するために必要なのが「ビジネスへの理解」

 そもそもなぜ、デザイナーがビジネスを理解する必要があるのでしょうか。まずは、私自身がビジネス理解の重要さを実感したエピソードを共有します。

 私がエイチームに入社して最初に携わったのは、クレジットカードに関する事業です。当時の私は、以下に示すように、事業そのものについて「何も知らない」と言っても過言ではありませんでした。

  • 商材であるクレジットカードに、どんな種類や特徴があるのかを知らない。
  • Googleで検索して自社サイトに訪れる人たちが、どんな検索をしているかを知らない。
  • 広告を出しているのは知っていても、それがどんな仕組みでどれくらいのお金がかかっているのかを知らない。

 そして配属から2~3ヵ月経つと、無知ゆえの苦労が出てきました。改善案を考えようにもどのクレジットカードをどんな人にオススメすべきかがわからなかったり、「良い施策だと思うけど広告費がかかりすぎるから現実的でない」というフィードバックをもらうこともありました。事業に関わるもの全般の理解が低いせいで、成果を出せていなかったように思います。

 またこの時期は、事業やビジネスではなく、サイトのグラフィックやUIだけを見て思考していました。あくまでUIを起点に「こうしたら使いやすいかもしれない」といった粒度でしか考えることができていなかったので、成果が出ないのも当然です。

 そういった経験を経て、商材や市場、サイトを運営している仕組みなど幅広いビジネス理解がなければ、デザインのスキルを上手く活かすことすらできないのだと気付きました。逆に、ビジネスを学んでデザインとつなげることを意識できた後は、片方だけの観点では気づけなかった問題を発見できたり、少ない制作工数でも大きな成果を出せたりと、一段レベルアップした実感があります。

 このように、デザイナーがデザインだけに関心を向けているとかなり狭い範囲でしか活躍できないように思います。むしろデザインスキルとは、ビジネスへの理解が深まることで100%発揮されるものではないでしょうか。デザイナーがビジネスを理解する重要性はここにあるのです。

PLを引けるようになる必要はない まずは事業の売上の式を考えてみよう

 普段から「デザイナーもビジネスに興味を持ち、理解を深めよう」という話をするのですが、「PL(損益計算書)を自分で引けるようになろうということですか?」という質問をもらうこともあります。

 PLが引けることももちろん、「ビジネスを理解している状態」だと思いますが、「PLが引けないからビジネスが理解できていない」となるわけでもありません。

 最初からいきなり完璧に理解することはできないのですから、どれだけ小さくてもまずは前進できれば良いと思います。ビジネスに強い苦手意識を持っている人であれば、自分が携わっている事業の売上はどのような式で表せるかを考えるといったスタートラインで問題ありません。

 Saasであれば月額利用料×ユーザー数、プラットフォームビジネスであれば総売上×手数料割合など、簡単に因数分解した式を言えるようになる。これも立派な「ビジネスの理解」です。

 もう少し踏み込めるようであれば、ファネル分析やコホート分析などで自分の事業はどこが弱点かを自分なりに整理してみるのも良いかもしれません。チームですでに分析している内容と自分だけでイチから分析してみた内容にどういう差分があるかを理解すると、足りない視点に気づけるかと思います。

 また、ビジネス職の方は毎日数字の変動を見ているはずです。一緒に同じ数字を毎日観察していれば、疑問点がいくつか出てくることでしょう。気になったものを教えてもらったり、自分で調べたりしているうちに、段々興味の範囲が広がっていくと思います。

 「ビジネスの理解」と聞いて苦しくなってしまう人は、まずは上記のような動きを意識してみてはいかがでしょうか。最初から完璧を求めて硬直してしまうよりも、どれだけ小さくても素早く学習ができる人の方が、ずっと早く成長できるはずです。

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