僕らが考えるデザインシンキング――数字で判断した時点で正しいプロセスには戻れない

僕らが考えるデザインシンキング――数字で判断した時点で正しいプロセスには戻れない

 革新的なサービスやアイディアを生み出すための思考法として、クリエイティブ界隈だけでなく、ビジネス全体でも注目されている「デザインシンキング」。だが、世間に広く認識されるとともに、この言葉にはさまざまな解釈が生まれているようにも思う。そのため、その成果を感じることができている企業は、まだまだ少ないのではないだろうか。今回は、デザインシンキングを実践しているというSun Asteriskの石川マーク健さんと竹本慶太郎さんに話を伺った。デザインシンキングのキモは一体何なのか。デザインシンキングの捉えかたとは。

デザインシンキングでやってはいけないこと

 今回話を聞いたひとり、石川マーク健さんは、5年ほどIDEOの契約デザイナーとして、空間のデザイナーをし、個人でコワーキングスペースのデザインや、『スタディサプリ』のラウンジスペースなど、空間コンサルタンティングに携わってきた経歴をもつ。一方、竹本慶太郎さんは、ニューヨークの美大でグラフィックデザインを学んだあと、デザイン事務所で広告デザインなどを担当。日本に戻ってからは、15年ほどフリーランスとして活動したり、スタートアップ企業でデザイナー兼ディレクターとして、デザイン全般に関わってきた。

 およそ20年にわたりクリエイティブの現場で活躍を続けるおふたりは、それぞれが携わる案件でデザインシンキングを用いることもあるという。どこかで学んだことはあるのだろうか。

石川 IDEOで初めてプロジェクトに参加した時は、特別にデザインシンキングについてのトレーニングがあったわけではありませんでした。チームのプロジェクトリード(PL)に、『今このフェーズではこういうことをやっているからね』と言われて実際に見て、学んで、やってみる。だからこれという正解を教えてもらったわけではなく、いろいろとPLにガイドしてもらっていたようなイメージです。あとはプロジェクト数をこなしていくと同時に、自分でも調べたり、周りに聞いたりしながら学んでいきました。

竹本 本で読むなどはもちろんしましたが、デザインシンキングの工程は、大学や働いているときにすでにやってきたことだと感じました。

たとえば『デザイン』いう言葉が指す範囲は広いので、何を指しているのかわからない。でも逆にその意味をそぎ落としすぎてしまうと、表面だけのデザインになってしまいます。おそらくですが、もともと人が意図をもって作っているものは、すべてデザインしているのだと思います。意図を持って考えて、作って、実践して、改良して、また考えて……。簡単に言えば、この繰り返しがデザインシンキングなのではないかと思っています。

だから、デザインシンキングのワークショップをやるときも、『デザイン』という言葉をとってしまっていい。ただの『ワークショップ』でいいんです。なにかを作るワークショップ。僕らが行っているのは、クライアントがプロジェクトに対して当事者意識を持って、いま取り組んでいる事業を一緒に見直したり、課題を見つけたりすることだと思っています。

株式会社Sun Asterisk Creative Director 竹本慶太郎さん
株式会社Sun Asterisk Creative Director 竹本慶太郎さん

 では普段は、どのようなプロセスでデザインシンキングを行っているのだろう。石川さんは「IDEOが提唱しているものとほとんど同じ」と前置きした上で、このように解説してくれた。

石川 最初にデザインリサーチのフェーズがあり、次が集約のプロセス。そこからブレストによってどんどんアイディアを広げて、それをまとめて、またブレストをしてアイディアを膨らませて、の繰り返しです。それを最終的に集約し、形にしていきます。

  1. デザインリサーチ・インスピレーション
  2. シンスシス
  3. ブレスト・コンセプトメイキング
  4. プロトタイピング・リアライゼーション
提供元:Sun Asterisk
提供元:Sun Asterisk

IDEOでプロジェクトに携わっていたころは、とくに建築関連だと、アイディアで終わってしまうケースも多かったんです。それをうけて僕は、デザインシンキングに「実現性」という視点があってもいいのではないかと思っています。

たとえば、みんなが会議で活発に意見交換ができるようにデジタルウォールが必要だ、というアイディアが出たとします。でも現実的に考えると、デジタルウォールの制作はとても労力がかかります。設計のためのコストもかかるし、当然技術者も必要になる。そう考えると、よっぽど予算が潤沢でない限り、デジタルウォールを制作するのはとても難しいんですよね。それなら僕は、それに代わるものをもう少し簡単に作ることができる方法を探すようにしています。

2009年のTEDgrobalでIDEOでCEOをつとめるTim Brown氏は、デザイン思考の最初のステップは「正しい質問を投げかけること」であると述べている。石川さんが、リサーチのフェーズでとくに気をつけなければいけないポイントとして指摘したのも同じく「質問」についてであった。

石川 質問のリストを作成し、ユーザーにインタビューをするときには、質問項目について忠実に答えてもらうだけではなく、インタビュイーが熱心に話を始めたり、これはおもしろい意見だと感じたときに、そちらの方向に会話を広げていくことが大切です。

たとえば、『今座っているこのイスすごく良いよね』という意見が出たときには、どういった点が具体的に『良い』のか、さらに踏みこみ、会話を広げるような質問を加えていきます。そこからなにか刺激的なコメントが出てきたときには、それをピックアップし、また話題を膨らませていく。興味深い話があれば、その話題を積極的に掘り下げていくという点がデザインにおけるリサーチの特徴的な部分だと思います。

株式会社Sun Asterisk Architectural consultant/Designer 石川マーク健さん
株式会社Sun Asterisk Architectural consultant/Designer 石川マーク健さん

日本の企業と一緒に仕事をして感じるのは、リサーチによって導き出されたデータや数字を求められることが多いということ。ですがデザインシンキングでは、『これがよかった』、『この体験が心地よかった』といった、数字だけではわからないような部分が大切。そのため、データを導き出すような定量的な質問を投げかけた時点で、それはデザインシンキングではなくなってしまいます。

竹本 たとえばユーザーリサーチでインタビューをした際に、10人のうち、ひとりだけが違った意見を述べたとします。これを定量的に捉えてしまうと、これが別の観点から述べられたとてもおもしろいアイディアだとしても、“ひとり”の意見は、数字上重要ではないと判断されてしまう。データだけをみて考えることは、可能性を狭めることにもつながりかねないんです。

※この続きは、会員の方のみお読みいただけます(登録無料)。