職人気質が強いからこそ「クリエイティブとテックの相性は良い」
――まずは会社を立ち上げ、クリエイティブテックを事業の中心に据えた理由から教えてください。
私が新卒だった2011年ごろから動画が注目されていましたが、いまだに完全なブームはきていないように思います(笑)。その間に、前職で取締役やCOOをつとめていた動画メディアのベンチャー企業は解散することになったというやむを得ない事情も、独立を決めた理由のひとつです。
少し取り巻く環境を交えた視点でいうと、当時のマーケティングが、目に触れるものではなく、いかにハックするか、どうやってメディアをテクノロジーでつなげるのかといった、クリエイティブの手前にある部分にフォーカスされることが多かった点に、あまりピンときていませんでした。いちばん大切なのは、ユーザーさんが広告やクリエイティブに触れてどう思うかではないかと感じていたため、デジタルに特化したクリエイティブエージェンシーとして起業。当時は、ウェブサイトづくりからポスター、チラシなど、あらゆるクリエイティブ制作を行っていました。広告や広告賞、ACのCM集などを見ることが好きだったり、ものづくりやなにかを表現することが昔から好きではありましたが、すべてが積極的な起業ではなかったというのが正直なところです。
現在提供している動画のクラウドサービスに舵を切った理由に、とくに象徴的な出来事があったわけではないのですが、クリエイティブ制作会社として上には上がいると痛感したからかもしれません。単純にデザインやクリエイティブ単体で勝負したときに、素晴らしいクリエイターの方や素敵なクリエイティブをつくる会社さんってたくさんあるので、そういった会社にはそもそも勝てないなと。それにフリーランスでも優秀な方がたくさんいるなかで彼らと戦ってもきっと勝てない。そうやって相対的に考えたときに私たちの強みだと思えたのは、システムやテクノロジーなどの技術をつくる部分です。技術でクリエイティブの再現する領域には昔から関心があったので、勝負すべき分野はここではないかと感じました。
クリエイティブの業界って、とても職人気質が強い産業ですよね。それが素晴らしいと思う反面、価値の算定が曖昧な業界だとも感じていました。たとえば、LPを1枚つくってそれを100万円と値付けをする人もいれば、5万円とする人もいる。そういった業界の基準がないことは、あまり良いことではないと思っていて。それならば私たちがシステムや技術の面でこの領域に入ることで、ものさしの役割を果たせるのではないか。そう思ったことが、クラウドサービスの提供を考えたきっかけです。
結局、私たちが属人的に動いたら、お客さまに対してできることって私たちのリソースの範囲を超えないですよね。さまざまな人たちにサービスとしてクリエイティブを提供するには、量産したり、再現性を担保する仕組みが必要だと考えると、テクノロジーの領域はすごく相性が良いなと。クリエイティブが職人産業な側面が強いからこそ、それを再現することで、多くの人たちにクリエイティブを民主化していくことは必要なのではないかと思いました。