制作プロセスに取り入れたクリエイターの視点
――まず、サイバーエージェントでAI×クリエイティブの取り組みが始まった経緯について教えてください。
毛利 サイバーエージェントは数百人のクリエイターをかかえ、数十万本というバナー広告・動画広告を制作し、配信してきました。配信した結果はデータベースに入っているのですが、2016年当時、それらのデータを会社として上手く活かすことができていたかというとそうではなかった。
同時にインターネット広告も進化を続け、年齢や住んでいる地域、趣味嗜好など、より精密なターゲティングができるようになってきました。すると、それに応じたたくさんのクリエイティブをつくる必要がありますが、今まではそれらのクリエイティブをすべて人力でつくっていたわけです。これらのデータを活用することで、より効果の高いクリエイティブをつくることができるのではないか――。そんな思いで始まったのが、AIとクリエイティブを掛け合わせる取り組みです。
そのタイミングでAI Labにコンピュータビジョンの研究者である山口が入社。会社としてのAIの理解が一気に深まっていき、まずは効果の高いクリエイティブをAIに教えるべく広告効果の予測機能の開発から始めました。
最初にその広告効果の予測機能を作ったときには社会に実装するためのアイディアはありませんでしたが、単純に制作物の効果を予測するだけではAIが最後の審査を行う形になってしまう。それは避けたいと思い、クリエイターの制作プロセス自体にAIの技術を組み込む方法を考えるようになりました。
デモ画面をつくってはデザイナーの渡辺に触ってもらい、それをみんなで見ながら調整していたのですが、そのときに渡辺が行っていたのが、20%くらいの完成度でラフをつくり、その成果をAIで確認しながら進めていくというもの。最後まで作り上げたあとに予測をすると、そのクリエイティブがあまり良いものではないと予測されたときにやり直す必要がありますが、この方法であればやり直しを極限まで減らすことができる――。この作りかたを軸に開発したのが極予測AIです。
渡辺 AIとクリエイティブを掛け合わせるこの取り組みについて聞いたときは、おもしろいなと思いました。数値にしづらいクリエイティブをデータとして扱うことができれば高い効果をあげることができそうだなと。成果をだすためにも、ぜひ取り入れたいと思いましたね。
――世の中全体におけるAI×クリエイティブ領域の流れは、どのようにとらえていましたか?
山口 そもそも研究領域においても、クリエイティブをデータとして扱う流れが生まれたのは、比較的最近だと思っています。きっかけとして大きかったのは、数年前にディープラーニングのモデルを活用して画像生成をする取り組みが一気に増えたことではないでしょうか。それ以降はたとえば、アート作品をディープラーニングで編集したり、新しい作品自体をつくる動きも増え、それが今も続いているように感じています。テキストを入力し検索するというのは以前から画像検索などで見かけますが、テキストを入れるとそれに合った画像生成までできるものも登場した。ここ2~3年で非常に生成される画像の解像度が上がり、高品質なクリエイティブがつくれるようになってきた印象です。