NFTアートを展示する場所として美術館が適している理由
――NFT鳴門美術館が生まれた背景や経緯について教えてください。
NFT鳴門美術館は以前、「鳴門ガレの森美術館」として12年間運営されてきた施設でしたが、その12年間はあまり積極的に手をかけている状態とは言えませんでした。建築物として25億円ほどの費用がかかっており固定資産税も免除されていましたし、県庁との共同管理の資産もあり、ある種の負債になってしまっていたのです。
鳴門市としてもどうすればよいのか悩んでいらっしゃったので、単なる美術館ではなくて、“入場収入以外の収入源”で成り立たせることを目指した美術館にリニューアルすることにしました。本格的にこの事業をスタートしたのは、2021年の1月からです。
私にとって鳴門はとくに縁のある場所だったわけではなく、条件に合ったというのが正直なところです。ただ、民間でもっとも大きな美術館の「大塚国際美術館」も鳴門にありますし、民間で新しいことをするならとても合っていると思いました。
実際に話を聞いていくうちに、NFTアートを美術館で扱うことにビジネスチャンスもあると感じるようになりました。そこで解決すべきだと感じた課題はおもにふたつ。信頼できる組織が「デジタルデータ自体の出所や所有者が誰か」を保証しながら競売を行えること。そして「現物を保管する場合に、誰がどこに保管するのか」ということです。これらの観点からみても、NFTアートを展示する場所として、美術館は非常に適していたんです。
たとえば美術館には、分厚い鉄筋コンクリートで守られている頑丈な金庫が常設されていますし、警備体制も24時間整っている。また億単位の美術品を預かることを考えれば、保険料も比較的安くなります。そういった部分を総合的に判断すると、億単位の美術品を預かることに対する効率が良いと言えるでしょう。これは、美術館が大きく優れている部分だと思います。
ただし、これまでの美術館は一般的に30~40%の入場料収入と50~60%の国や自治体からの助成金で運営されており、基本的には赤字です。これは「展示」のみが目的になっており、ビジネス的な概念があまり根付いていなかったことが原因ではないかと思っています。
またタイミングとしても、新型コロナウィルスのパンデミックで入場者が一気に半分以下になるなど大きく数が落ち込んだ時期で、入場料の収入を見込むことが難しかった。私たちがしなくてはならなかったのは、美術館のビジネスモデルそのものを考え直し、それを“成り立つもの”にすることだったのです。