なぜBtoBサービスでデザインが後回しになってしまうのか
――これまでのキャリアを含めて簡単に自己紹介をお願いします。
麻野(KW) リンクアンドモチベーションを退職して、2020年に「仕事のイネーブルメント」、社員の方々の能力向上や成果創出をテーマとしたSaaSを提供するナレッジワークを創業しました。BtoBサービスは機能数にこだわりがちですが、それがユーザーにとっての使いやすさにつながっていないのではないかという課題を感じ、業務体験を良くするサービスを提供したいと思ったことが、起業のきっかけです。
実は、グッドパッチさんとのつながりは前職時代からあり、僕が立ち上げた「モチベーションクラウド」のデザイン刷新をお願いしたのがグッドパッチさんでした。それがモチベーションクラウドの成功につながりましたし、土屋さんやグッドパッチさんからデザインを教わったと思っています。
土屋(GP) グッドパッチは「デザインの力を証明する」というミッションのもと、企業の戦略に並走する形でデジタルプロダクトのデザインを行っています。以前はtoCのサービスが多かったですが、ここ数年でBtoBのサービスの依頼が増えてきました。
小川(KW) グッドパッチには新卒ひとりめのメンバーとして入社しました。当初はまだUIデザインに関する情報が日本に流通していなかったので、海外のUI/UXに関するブログを翻訳して公開するなどしたあと、プロジェクトマネージャーとしてクライアントのサービス設計などに従事。それまではtoC向けのサービスに向きあうことが多かったのですが、さらに社会にインパクトのある大きい課題解決に挑戦したいと思い、2020年に創業メンバーとしてナレッジワークにジョインしました。
――BtoBサービスでデザインへの投資が後回しになっている背景を、どのように捉えていますか?
土屋(GP) BtoB企業ではとくにデザイナーが足りていないですよね。グッドパッチが行っているデザイナー向けキャリア支援サービス「ReDesigner」が行った調査によると、デザイナーの携わりたい事業形態は、BtoCが34%であるのに対し、BtoBはわずか4%。そのためBtoBのサービスを提供する企業はデザイナー不足となり、私たちのようなデザイン会社に依頼をするケースが多くなってきています。BtoBのサービスはデザイナーが自身で使用するイメージが湧きづらいことも、チャレンジしづらい一因でしょう。
小川(KW) デザイナーの場合、そもそもサービスの利用フローを理解しないとデザインができないため、まったく知らない領域には手も足も出ない、興味を持つことも難しいというケースはかなり多いと思います。
麻野(KW) toCのサービスは、実際にユーザーが使ってその良し悪しを判断するため、UIやUXが悪いとすぐに使ってもらえなくなります。一方BtoBは、決裁者と実際のユーザーが異なることが多く、極論サービスを導入するまでUIやUXの話がでないこともあり得る。稟議を上げる過程を想像するとわかりやすいかと思うのですが、BtoBサービスはUI/UXではなく、機能や価格が導入の際に重視される。そういった背景もあると感じています。
ワークエクスペリエンスを支えるデザインの重要性
――BtoBサービスにおいてデザインが後回しになることで、どのような課題が起きているのでしょうか。
麻野(KW) ユーザーの「働く体験」を悪くしていることだと思います。1日24時間のうち、8時間が睡眠、8時間を仕事、残りの8時間を余暇に充てるとしたら、余暇で触れるtoCサービスのデザインが良くても、仕事で扱うBtoBサービスのデザインが悪ければ、1日の3分の1はデザインの悪いものに触れながら仕事をしなければいけないことになる。これは人生における体験として好ましくないですよね。
土屋(GP) グッドパッチでは初期からBtoBのUIデザインが重要だと注目し、大切にしてきた自負があります。というのも、世の中にあるBtoBサービスのUIが、語弊を恐れずにいえば本当に良くなかった。今はBtoB企業がデザイナーを求めるようになりましたが、昔はそれすらなく、ユーザーにとっての使いやすさが想像されていなかった。BtoCに比べてマイナスが大きい領域だったので、初期から力を入れてきました。
最近はBtoBにも、UXデザインのしっかりしている海外発のサービスも入ってきていますが、以前は使いやすいビジネスチャットツールがなさすぎて、グッドパッチでつくろうかと考えたこともありました。ですがSlackを初めて触ったとき、体験の素晴らしさに圧倒されたことは忘れられません。
ビジネスチャットツールのデザインと言うと、シックな色合いで無駄をそぎ落としたものになりそうですが、Slackはその真逆。初期から遊び心を入れていました。自分が働く体験が、Slackによって楽しくなったんですよね。
小川(KW) 今でも覚えているのが、ログインした時に「Hello グッドパッチ」と出てきたこと。あれには感動しましたね。新しいコミュニケーションだったので、これはほかとは違うツールだと一瞬で確信しました。