「広告をつくる」とはなにか その本質をクリエイティブディレクター東畑幸多さんと問い直す【前編】

「広告をつくる」とはなにか その本質をクリエイティブディレクター東畑幸多さんと問い直す【前編】
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2023/06/07 08:00

 最前線で活躍しているクリエイターに、これからの広告づくりについて話を聞く本コーナー。初回となる今回は、サントリー天然水「大自然よ、ぼくたちのピュアな部分になってくれ」サントリー企業広告「素晴らしい過去になろう」、Honda企業広告「Go, Vantage Point.」「Hondaハート」、九州新幹線全線開業「祝!九州」など多数の広告を手掛けてきたクリエイティブディレクターの東畑幸多さんが登場です。

「僕はコピーを愛したのにコピーに愛されなかった」 影から見つけた生きる道

――まずはご経歴から教えてください。

小さいころからテレビ番組や映画などが好きだったので、何らかの形で映像に関わる仕事ができたらと思っていました。また学園祭のように人に喜んでもらうことも好きだったので、ウェディングプランナーなども視野に入れながら就職活動をしていたところ、電通からご縁をいただき1999年に入社しました。なにか大きな志があったわけではなく、たまたま広告に辿り着いたという感じでしょうか。

私の場合、入社から退社する2021年まで、クリエイティブ局にいました。最初はコピーライターからスタートし、広告について学ぶなかでコピーライティングのおもしろさや言葉が持つ力を実感していました。1万時間ほどを費やし、かなり真剣に取り組んだのですが「仲畑貴志さんのような著名なコピーライターにはなれないし、僕はコピーを愛しているけどコピーに愛されていないんだ」と気づいてしまった。そのときにとても傷つきながらもある種の逆ギレもして(笑)、別にコピーで人の心を動かさなくても良いのではないかと考えるようになりました。自分の影をみたら、逆サイドに光があったイメージです。そこからだんだんと自分の強みが見えてくるようになり、CMプランナーとして働き始めました。34歳ごろからはコミュニケーションの全体設計をするクリエイティブディレクターとCMプランナーの仕事を兼務するようになっていましたね。今はこの両方を行うスタイルがいちばんしっくりきています。

僕がコミュニケーションで大切だと思っているのは、「最初にどのようなベクトルをもつか」「最後にどのようにお客さんに触れてもらうか」、つまり入り口と出口をどう設計するかということです。これは「抽象」と「具体」と言い換えられるかもしれません。お客さんが触れる具体的な接点のなかに、コミュニケーションを考える際の重要なインサイトがあったり、逆にマーケティングの全体戦略に表現のヒントがあることもある。その抽象と具体を行ったり来たりする意味でも、クリエイティブディレクターとCMプランナーの両方の視点を持っていることは大事だと感じています。

最近携わったサントリー天然水「たためるボトル」のCMでは、サステナビリティがカギではあるのですが、思わず消費者がやってみたくなるCMを作りたいと思い、スタッフ5人でペットボトルをつぶしてみたところ僕だけができなかった。ちょっとだけコツがいるんですよね。第一手目を少し斜めにずらさないと、つぶしても戻ってしまうんです。

「できるかな?」というコピーが生まれたのも、自分だけ上手くいかなかったことがヒントになっています。意外とコツが必要で、できない人がいることに気づいたから。そのときに、ただタレントさんがペットボトルを折りたたむだけだと凡庸な広告になってしまうので、誰に実演してもらうのが良いか、どのような組み合わせが良いかを考えるわけです。これからを生きる世代の人が教え、今までそういったイメージがない人が試してみるほうがおもしろいのではないかと思い、布袋寅泰さんと芦田愛菜さんをキャスティングしました。

またラベルを剥がして捨てないと、ペットボトルリサイクル業者の方たちが全部手作業で剥がさなければいけなくなる。そんな、捨てた先にも人がいることに気づいてほしいとの思いから、収集作業員役としてティモンディのおふたりが登場します。リユース、リデュース、リサイクルの3つのRが大切だと言われますが、その先に人がいること、つまり「リスペクト」も感じられるものになれば良いなと。サントリーがサステナビリティを大切にしていること、そしてそのペットボトルを回収した先に人がいることにも気づいてもらいたいといった全体の戦略を考えながら、具体的なコピーやCMのアイディアを考えています。

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