“良いアイディア”で終わらせない GAME CHRONICLEに学ぶ、企画を形にするために必要なこと

“良いアイディア”で終わらせない GAME CHRONICLEに学ぶ、企画を形にするために必要なこと
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2020/01/06 08:00

 全日本空輸(以下、ANA)が2012年から運営する訪日外国人向けのプロモーションメディア「IS JAPAN COOL?」では、アート、祭り、和食などのテーマを設け、日本の文化を海外に発信する取り組みを行ってきた。2019年10月に公開となった「GAME CHRONICLE」は、日本のゲーム文化を世界へ発信するべく、1980年代~2010年代までを4つの時代にわけ、それぞれを象徴するゲームの歴史を100のトピックで紹介。サイト上では、それを実際にゲームで遊びながら体感することができる。今回は、本企画のクリエイティブを担当した、クリエイティブエージェンシー「猿人|ENJIN TOKYO」の野村志郎さんに話を伺った。アイディアを思いついた時に必ず行っていることとは。アイディアを実現させるためのコツとは。

良いアイディアが浮かんだらまずは超絶ネガティブチェック

――まずは野村さんのご経歴から教えていただけますか?

僕はクリエイティブではなく、広告会社の営業職からスタートし、いわゆるアカウントビジネスに10年ほど携わっていたのですが、だんだんとコミュニケーション全般を担うようになっていきました。およそ5年くらい前に、たまたま自分でアイディアを考えて提案をする機会があり、それが決まった時にじゃやるかとなって以来、主に広告のクリエイティブアイディアを考えて実現させる仕事を行っています。クロックスのスニーカーを自動制御のドローンが運ぶ「空中ストア」や、累計で3,000万再生を超えたJNTO(日本政府観光局)の訪日ブランディング動画などの案件を手掛けてきました。

――今回のGAME CHRONICLEのお取り組みはどのように進めていったんですか?

GAME CHRONICLEは、ANAさんが2012年から「日本の文化を発信する」をテーマに取り組んでいた「IS JAPAN COOL?」プロジェクトの一環です。今まではアート、祭り、職人などを取り上げていたのですが、今回は「ゲーム」にしました。

どんなプロジェクトでもそうですが、いきなりアイディアを考え出すのではなく、まずそのテーマを本質的に掘り下げて考えます。今回は、「ゲームとはなにか」、「人がおもしろいと感じるものって何だろう」という部分を深堀りしていきました。

僕は発売当初のスーパーファミコンで遊んでいた世代なので、ゲームやそのデバイスの進化は目の当たりにしてきましたが、なぜ日本で任天堂やプレステなどのビデオゲームが生まれこれだけ普及し、世界中を席巻するカルチャーになったのか。それを個人としても知りたいと思ったし、そこを掘るとおもしろくなるのではないかと感じました。

掘り下げるテーマが決まったら、次はアイディアを考えるフェーズです。そこで僕は「シンプルに一言で表すことができる企画」にすることを心がけてます。企画書にする前にショートメールに書いて送ったり、それくらい説明的な要素を削ぎ落としてもおもしろいかどうか。伝わるかどうかそれが強いアイディアには必要だと思ってます。今回のGAME CCHRONICLEだと、日本のゲーム史を80年代から現代まで100のトピックで紹介し、時代ごとに移り変わるテクノロジーの進化をゲーム仕立てで体験させる、です。

アイディアを考えていると、良いものがいくつか浮かんだりするんですよ。「あ、これおもしろいかも」とか「このアイディアすごく良いぞ」と思うのですが、そこで必ず、自分自身のアイディアに対して超絶ネガティブチェックをするんです。自分の中に意地悪なアンチを住まわせて、思いついたアイディアに徹底的に攻撃を仕かける。

実現したくなる良いアイディアを思いつくとワクワクするのですが、僕の仕事はいわゆる自己表現ではなく目的を持った広告の表現。世の中に響くか、求められる効果を出すことができるか。そもそもどうやって実現するのか。そういった、実現する上で壁になりそうな視点で、片っ端から思いついたアイディアを叩いていきます。それが弱いと「おもしろそうだけど実現しないアイディア」になってしまう。そうやって生き残ったアイディアだけが本物の企画になるのだと思います。

キャプション:猿人|ENJIN TOKYO クリエイティブディレクター 野村志郎さん
猿人|ENJIN TOKYO クリエイティブディレクター 野村志郎さん

――そうして残ったものは、批判的な意見が浮かんでも「こうすれば大丈夫」という道が浮かんだものということでしょうか。

そうですね。斬新で思い切ったアイディアであればあるほど、世の中に出るまでにさまざまな意見がぶつけられます。おもしろそうだけど効果は出るのかとか、本当に実現できるのかとか。そういった意見に対しても、ロジカルに説明できるアイディアでないと、おそらく上手くいきません。

もちろん、発想は自由に考えたほうが良いと思います。ただし、それだけだと、良いアイディアなのになかなか思い描いた通りに実現しないというジレンマに陥るのではないでしょうか。

僕は「おもしろいアイディアに限って実現しない問題」があると思ってます。「こんなことをやってみたい」というアイディアが浮かんでも、それを形にするには信じられないくらいたくさんのハードルがあることが多いですし、そもそも実現可否は自分ひとりでは決められません。だからこそ、思いついたアイディアを実現させることに執着する。そのために企画を徹底的に叩いて鍛えあげることが大切なのだと思います。

今回でいうと「日本のゲーム史を80年代から現代まで100のトピックで紹介し、時代ごとに移り変わるテクノロジーの進化をゲーム仕立てで体験させる」という企画の軸が明確にあるので、そこに入ってくるコンテンツが変わっても成立します。サイト上でプレーすることができるゲームを作る段階で、どんなルールにするか。エンタメ性と文化を学ぶバランスをどうするか?など判断を迷うこともあったのですが、軸がシンプルに言語化されていると、目指すべきゴールがはっきりします。

また、企画と表現の順番を間違えてはいけません。たとえば今回のコンテンツで「有名キャラクターを起用する」とすると、それが実現できないと企画は成立しない。結果として、今回はさまざまなゲームメーカーさんにご協力いただき豪華な内容になりましたが、企画の軸は別のところにあるので、器に入るコンテンツが変わっても成立します。

もちろんそこに入れるものがより魅力的であればさらに輝きますが、そもそもの企画は超絶ネガティブチェックを通って生き残ったものなので、自分としても自信を持って「いける」と感じることができるもの。だから今回の企画で「必ずマリオを入れたい」などと最初に決めてしまうと、企画としてはもろくなるように思います。

アイディアって、完璧にロジックを組み立てて考えたというより、全然関係のない時にふと思いついたりしますよね。だからこそ、理屈で説明できないことも多い直感的に生まれた企画が正しいかどうか。それを徹底的に自分で叩くようにしてます。

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