アドビがジェネレーティブAIの開発で大切にしている思想とは

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2023/10/04 08:00

 話題にのぼらない日はないほどのブームとなっている生成AI。プロンプトへの入力だけで、意図に即したアウトプットが出てくるとあって、経済界は非常に大きな期待を示しています。この2年で激変した環境をふまえ、クリエイターと生成AIの向き合いかたを、アドビの阿部成行さんが考察します。第2回は「Adobe Fireflyの開発背景やその取り組み」についてです。

 クリエイターと生成AIの向き合いかたを考える本連載。第2回では、2023年3月にアドビが発表した生成AI「Adobe Firefly」の開発コンセプトや関連する取り組みを通じて、クリエイターや企業が安心して利用できる生成AIについて考えてみたいと思います。

企業での利用が進まない画像生成AI

 皆さんはMidjourneyやStable Diffusionのようなサービスを使ってみて、どのような印象を抱いたでしょうか。私が実際に話を聞くことができたクリエイターは、いわゆる「壁打ち」と呼ばれるアイデア出しで利用していました。アウトプットをそのまま公開しなければ、著作権への抵触を心配する必要はありませんし、何より自分では思いつかなかった発想を得られる点は魅力的です。AIが作ったアウトプットを参考に、自分自身のアウトプットを拡張する。これはどのクリエイターも実感している良さだと思います。

 クリエイターもマーケターも、企画、制作、公開と続くプロセスの各段階で試行錯誤を繰り返しながら仕事をしています。その一連のプロセスを加速させる手助けをしてくれるのが生成AIです。コピー案やクリエイティブアセットの生成はもちろん、プランニングでのターゲットオーディエンスの理解、公開前のローカライズまで、生成AIは幅広く使えます。とは言え、生成AIは正しいアウトプットを提供するテクノロジーではないため、出力された結果をどのように使うかは人間が判断しなくてはなりません。生成AIのツールやサービスを提供する多くの会社が「AIは副操縦士」と表現するのは、主導権を握るのはあくまでも人間で、AIではないからです。

 副操縦士として生成AIの導入が先行しているのがソフトウェアエンジニアリングの領域です。エンジニアはスキル面で優位な部分もありますが、彼らが扱う「プログラム」は品質の基準が明確でチェックしやすいことも先んじて取り入れられている理由でしょう。生成AIを業務で利用する場合、出力結果の正当性をどのように確認するかが重要だからです。プログラムや広告コピーのように出力結果が確認しやすく統制を効かせやすいテキスト生成AIと比べて、画像や動画の生成AIは業務での活用が議論の俎上にあがらない状況です。なぜ組織での活用が進まないのかを考えたとき、真っ先に思い付く理由は著作権や倫理的な問題でしょう。前回の記事で触れた生成AIがもたらすリスクは、テキストよりも画像や動画のほうがより強く影響を受けるからです。

生成AIは革命を起こす一方、懸念を抱いている企業も。
生成AIは革命を起こす一方、懸念を抱いている企業も。

アドビが考える社会に受け入れられる生成AI

 2023年3月にアドビが発表した生成AIがAdobe Fireflyです。多くの画像生成AIがリリースされているなかでAdobe Fireflyの特徴のひとつは「商用利用を前提とし、安心して使えるように設計された生成AI」というコンセプトを持っていること。この実現にあたりアドビでは3つの領域で取り組みを進めています。まずは生成AIの本体である「モデル」から見ていきましょう。

商用利用を前提として安全性を考慮して設計された生成AI
商用利用を前提として安全性を考慮して設計された生成AI

 生成AIの開発とは、一般的にデータを大量に用意してモデルを学習させることを指します。こうした作業は莫大なコストがかかるため、すべての生成AIベンダーが独自にモデル開発を行うことは現実的ではありません。実際、公開されている画像生成サービスの中には、オープンソースモデルや、ほかのモデルの上に独自の機能を加えてUIを作っているものも少なくありません。この場合、学習データに何が入っているのか、どのようにキュレーションされているのか、まったくわからない状態です。

 一方アドビは、学習に使うデータをクリーンなものにするために独自にモデル開発を行っています。Adobe Fireflyでは、Adobe Stockの素材のほか、著作権フリーの画像とパブリックドメインの画像でモデルを学習させています。また、暴力表現や差別的といった不適切な出力から利用者を守るための仕組みも重要です。セーフティーフィルターと呼ばれる社会規範に反する表現を回避するための機能強化にも取り組んでいます。

 さらに先日、Adobe Fireflyにエンタープライズ版をラインナップすることも発表しました。その内容には「Fireflyによるワークフローで生成したコンテンツによっては、アドビから知的財産(IP)の補償を受けることができる」というサービスが含まれています。こうした補償制度は、Adobe Stockのようなロイヤリティーフリー画像に付帯していることが一般的ですが、その枠組みを画像生成AIの出力にまで拡げ、より安心して商用利用ができるようにする取り組みのひとつです。

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