これまでBiz/Zineで連載している「デザイン・イネーブルメントによるDX推進」では、デジタル変革におけるデザインの新しいありかたを考察し、デジタルネイティブなプロダクトにおける「より好ましい状態」を目指すアプローチとしてデザイン・イネーブルメントを紹介。前回の記事では、地方銀行の事例を用い、最初の一歩となる観点「デザインの具体化」からデザイン・イネーブルメントの実践と効果を解説しました。
そんな5回目となる今回は、これまでの内容をふまえ、デザインを具体化したあとのフェーズにフォーカス。個人や少人数のチームから大規模なチーム・組織全体に拡大する際のプロダクトのグロースや、チームの効率化につながるアプローチとしての「デザインシステム」について、CreatorZineの読者に向け解説します。
ゆめみが考えるデザインシステムとは
デザインシステムとはデザインの再利用性と再現性を軸に、デザイナーだけでなく幅広い職種の方が使える指針であり共有言語です。デザインシステムの中に含まれる要素は、UIコンポーネントやガイドラインをまとめたものだけでなく、さまざまな要素を取り込むことができる考えかたです。またプロダクト開発において、すべてのデータがひとつの場所で管理されるべきという考えかた「信頼できる唯一の情報源(Single source of truth)」を達成するものとして、デザインシステムが活用されているケースもあります。
デザインシステムは、「デザイン・ランゲージ」「パターン・ライブラリ」など企業によってその呼びかたが異なるケースがありますが、一貫性のあるデザインを実現するための指針という点では共通しています。
一方、デザインシステムにおける誤解としてよくあるのが、「絶対に従わなければいけないルールのように捉えられ、逸脱することができないもの」と認識されてしまうことです。プロダクトをより良い状態にできる効果的なデザインシステムとは、以前のBiz/Zine連載で挙げた次のようなものが当てはまります。
- 「MAYA(Most Advanced Yet Acceptable:非常に先進的だが、許容範囲内)」な状態
- デザインシステムの基礎となる考えをグラフィックデザインに適応したカール・ゲルストナが、著書『デザイニング・プログラム』で述べた「最大限に自由の持つルールに最大の適合性」を、デザインプロダクトに関わるステークホルダー間で見つけることができている状態
デザインシステムは「情報の組織化を実現させるドライバー」
ではなぜ、DXの文脈とともにデザインシステムのような活動が増えてきたのでしょうか。
インターネットが発展したことで、世の中には数えきれないほどのウェブサイトやアプリケーションが誕生してきました。現在ではそのような媒体から提供される情報の複雑さが顕在化し、同時にその複雑で膨大な情報を提供するために、組織は効率的なデザイン作業が求められています。
Rosenfeld、Morville、Arangoらは情報アーキテクチャの観点から、「人々は技術発展にともなって、情報の組織化の難しさを何世紀にもわたり抱えてきた」とも述べています。
企業においても同様に、テクノロジーや事業の発展とともにさまざまな部署・部門からプロダクトに貢献できる人やチャネルが増えたことで、情報発信が分散化し、情報のサイロ化が起きています。つまり前述した「情報の組織化」が難しい状況になってきているのです。また内的影響だけでなく、エンドユーザーにとっても、接点によって受け取る体験に差が生まれ、「アプリを使う自分」と「ウェブサイトを見る自分」とでは異なるメンタルモデルが形成されてしまうといった課題が生まれるケースも考えられます。
このような背景があり、プロダクト開発における情報を組織化するためのアプローチとして、デザインシステムが活用されるようになりました。「一貫性」「効率性」を提供するデザインシステムは、情報の組織化を実現させるドライバーでもあるのです。