事業成長を牽引するために 非デザイン領域にデザインを浸透させる重要性とデザイナーに求められること

事業成長を牽引するために 非デザイン領域にデザインを浸透させる重要性とデザイナーに求められること
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 「組織崩壊」「部門間の孤立」「組織の成長痛」「n人の壁」は、スタートアップや成長企業が直面する組織課題として耳にすることが多くなりました。こうした課題に対してデザイナーは、組織の中でデザインの力を特殊能力にせず、企業の構造的な問題を解決し成長を促すために「組織に対してデザインをどのように使うのか」を深く理解し、実践に移すことが重要になっています。本記事では組織とデザインの観点から「非デザイン領域にデザインを浸透させる重要性」と「組織をつなげるためのデザインプロセス」を、プロダクトデザイナーとして実践を重ねてきたアライドアーキテクツ 田中淳平さんが掘り下げます。

組織フェーズの変化とその課題

 デザインの効果を引き出し正しく活用するためには、ツールや素材に関する知識と同様に組織の性質や特性の理解が不可欠です。そこでまずは組織の発展プロセスについて考察していきたいと思います。

 企業が成長する過程では、「成長の壁」と呼ばれる課題は避けて通れません。この段階は「30人」「50人」「100人」というように、規模が拡大するごとに異なるチャレンジがありますが、組織成長における無視できないステップとして体系化されています。

 2016年にスタートしたCVR最適化プラットフォーム「Letro」は、2022年2月までにProduct-Market Fit(PMF)を達成し、素早くスケールアップするための採用活動が積極的に行われていました。しかしその裏では、組織の急速な拡大によって「ひずみ」が生まれていたのです。

 この時期はPMFを達成した直後の「混乱期」。セールスやカスタマーサクセスなどのチーム機能を強化しながら組織を大きくしていく段階の成長痛とも言えるでしょう。

 私がLetro事業部のプロダクトデザイナーとして2022年2月に入社した際、各部門に熱量や一体感はありました。しかしその一方で、事業全体ではPMF前に有効だった「阿吽の呼吸」のような柔軟なマネジメントスタイルが機能しなくなっており、その結果チーム間のコミュニケーションが希薄化。部署間のシームレスな連携の欠如し始めていました。

拡張するデザインの役割とその重要性

 事業が拡大するにつれ組織も成長する必要がありますが、人や組織の成長には慣性の法則が働くため、組織の成長速度が事業の成長に追いつかなくなります。

 これは企業が事業成長を目指す以上、自然の摂理と言えるでしょう。この必然的な「事業と組織の乖離」を埋めるために、デザイナーは単なるビジュアルの専門家としての立ち位置では足りません。チームワークを促進し部門間を接続すること、そして組織の「ハブ」として機能することが求められており、そのフェーズは現在「第4世代」に来ていると言われています。

 第1世代の「グラフィックデザイン」では、記号と人間の関わりをつないできました。第2世代の「インダストリアルデザイン」では、人と道具との関わりも対象になっていきます。続く第3世代では「インタラクションデザイン」が登場し、人とコンピューター、人とスマートフォン、人とサービスとの関わりが重要視されました。そして現在の第4世代では、デザインは「組織と人との関係」に焦点をあてた取り組みへとシフトしており、組織内のコラボレーション促進やイノベーション推進に寄与することも期待されています。

 事業会社のインハウスデザイナーが担う最大の責務は、デザインを通じて「事業の成長を推進すること」だと考えています。この実現には、プロダクト利用における機能的価値だけでなく、理想的な体験を通してユーザーの問題を解決する体験価値創出が必要です。

 このようなビジネスインパクトを生み出すためには、異なる部門との協調をもとにしたコラボレーションによって、ユーザーニーズに応えるアプローチが不可欠です。チームの中でバラバラになっているビジョンやブランドストーリー、体験価値をプロダクトに「統合していくこと」がデザイナーにとっていちばんの仕事であり、大きな役割であると感じています。

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