ブランディングにおけるマンガの強みと“日本”でコンテンツをつくる強さとは 京都芸術大学・矢野教授に聞く

ブランディングにおけるマンガの強みと“日本”でコンテンツをつくる強さとは 京都芸術大学・矢野教授に聞く
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2024/06/20 08:00

 美術工芸、情報デザイン、舞台芸術、映画など、芸術に関わる領域を幅広くカバーする京都芸術大学。近年、卒業生の3人にひとりがプロのマンガ家として生計を立てているのが、キャラクターデザイン学科のマンガコースだ。その学科長をつとめる矢野浩二教授は、IT企業に入社後、事業企画や経営企画本部長を歴任したあと独立。映像やウェブ制作、舞台演出を手掛けるなど自らもクリエイターとして活動しながら、さまざまな企業のブランディングに携わってきた人物だ。そんな経歴をもつ矢野教授がなぜマンガに魅力を感じたのか。マンガが持つ力とはなにか。コンテンツづくりの場としての“日本”とは――。今回はマンガコースの「キャリアマネジメント」講義内で行った公開取材の様子をお届けする。

世の中の新しいありかたやビジョンをつくってきた「マンガ」

――まずは矢野教授のご経歴から教えてください。

もともと学生のころは、絵や文章、音楽など、さまざまな領域で制作を行っていましたが、進んだ大学はとくに芸術を学べるような学部ではありませんでした。大学卒業を控え自身の進路を考えたとき、音楽などでクリエイターとして生計を立てていこうかと考えたこともありましたが、それはいまいちおもしろくないなと。このまま大人の業界に埋もれていくのが嫌だったんですよね。自由に生きていくことが信条なので、業界そのものをつくっていくことに携わりたいと思っていました。

サラリーマンとしてひととおり習得すべきことを20代で全部やりきるんだと心に決めてベンチャー企業に入社。事業企画や経営企画なども経験させてもらっただけでなく、当時は100名程度の会社が上場するまでの変化を感じられたことなどもとてもラッキーだったと思います。ただそこから年数をかけてまで社長になったりといったキャリアアップにはそれほど興味がなかったため、30歳で自分の会社を立ち上げました。

もともとクリエイティブとビジネス、どちらもできる人間になりたいと思っていたため、ビジネスでいただいた予算をもとにいろいろなクリエイターに発注をしていくプロデュース業を軸にしていました。一流のクリエイターに仕事を発注して一緒に考えながらモノづくりをしていく中で、自然と映像など一流のクリエイティブ制作手法を学ばせていただきました。クリエイターとしてもちろんできないこともありましたが、できなくてもまずは案件をいただいて自分で勉強して仕上げる。そんな日々を続けていくと、おのずとスキルアップしていきました。

京都芸術大学 芸術学部 マンガ学科 学科長 矢野浩二教授
京都芸術大学 芸術学部 マンガ学科 学科長 矢野浩二教授

僕のポリシーは「世界を平和にすること」。そのためには、まずはお金が必要だし、そうやって経済を盛り上げていくためには文化との架け橋をつくらなければならないと考え、自社で海外イベントのプロデュースなどを行っていました。

ビジネスとしてマンガとの最初の触れ合いは、フランスで開催されている「JAPAN EXPO」。今でこそ有名なエキスポになりましたが、まだ広く名前が知られる前。フェイク商品が溢れるなか、日本人のグループが質の高い本物の商品を販売しているのにまったく売れない点に課題を感じました。マンガなどもふくめ、日本のコンテンツを海外にどのように持っていくか――。それを考えビジネスと結びつけていったのが、マンガとの最初の接点だったと思います。

――さまざまなコンテンツがあったなか、マンガにフォーカスしたいと思った背景や魅力を教えてください。

自分のキャリアの中心にあったブランディングに、より焦点を当てても良かったのですが、マンガに大きな可能性を感じていました。

授業でビジネス企画も教えていますが、僕にとって「ビジネスをつくること」と「マンガをつくること」はあまり変わりません。ビジネスモデルを作る人たちは収益計画や、この技術を使ってどうするかといった話をしますが、つまるところ、ビジネスをつくることは「世の中にどうやって新しい価値をつくるか」に集約されると思っています。

一方、マンガ制作は今まで、世の中の新しいありかたやビジョンを作ってきた業界だと僕は思っています。今や人が宇宙に行ったり、スマートウォッチで生活が便利になったりしていますが、すでにマンガで描かれていたことも多い。それに技術が追いつき、日常に実装されるようになっている。そういった観点からも、商業誌やエンターテイメントに限らず、マンガには大きな魅力とポテンシャルがあると感じています。

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