「fontgraphy」の取り組みで見えたAIとクリエイターの関わりかた DeNAの制作陣が語る

「fontgraphy」の取り組みで見えたAIとクリエイターの関わりかた DeNAの制作陣が語る
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2020/01/17 08:00

 2019年で創業20周年を迎えた株式会社ディー・エヌ・エー(以下、DeNA)が、その記念ロゴを作ろうというアイディアに端を発した「fontgraphy(フォントグラフィー)」。AIで1人ひとりの声からオリジナルグラフィックが作れるというものだ。fontgraphyで特徴的なのは、声という声紋データを分析するAIとフォントとイメージ画像の印象をグラフィックに反映させるAIなど、複数のAIを活用している点だ。だが実はこの取り組み、全体の企画を担当した佐藤香織さんも、プロデュースとディレクションを担当した渡辺義久さんも、AIに関する知識がほぼない状態でスタートしたのだという。はじめてAI関連のプロジェクトに携わったというおふたりと、テクニカルディレクションやシステム全体の設計、そしてデザイナーとAIエンジニアの架け橋役をつとめた加茂雄亮さんに話を伺った。AIを活用したfontgraphyの取り組みをとおして、クリエイターたちが学び得たこととは一体。またクリエイターはAIをはじめとしたテクノロジーをどのように捉え、活用すればいいのだろうか。

イメージは「観測可能な宇宙」 AIと声をかけ合わせた「fontgraphy」の取り組みとは

――AIで1人ひとりの声からオリジナルグラフィックが作れる「fontgraphy」は、どういう経緯で生まれたものなのでしょうか。

佐藤 2019年でDeNAが20周年だったのですが、それを記念したロゴを作ろうというプロジェクトが立ち上がりました。

DeNAは創業が1999年で、インターネットやPCの普及、ガラケーからスマホが登場してという時代の流れとともに成長してきた会社なので、そこからさらに未来に向かっていくことが表現できればと思い、なにか新しいものを作りたかった。

そこで最初に注目したのが、各時代に登場したメディアです。

産業革命の時に生まれた活版印刷の技術により、一気に量産できるようになったことで広告という概念がうまれ、そのあとにテレビが登場し、その次にコンピューターが誕生しました。そこで3DCGやアニメーションという概念が生まれ、インターネットの時代がやってきた。ロゴをはじめとしたクリエイティブというのは、その時代によって変化をとげているんですよね。では次にやってくるんだろうと考えて行き着いたのがAIでした」

株式会社ディー・エヌ・エー デザイン本部 マーケティングデザイン部 佐藤香織さん
株式会社ディー・エヌ・エー デザイン本部 マーケティングデザイン部 佐藤香織さん

渡辺 もともとこの20周年のキャッチコピーは「主役になろう」。どんな人でも強みをもっていて、誰だって主役になれるんだというメッセージを伝えようと思うとやはり、社員全員の個性を活かしたものにしたかったんですよね。顔認証や筆跡というアイディアも出たのですが、ユーザー体験として面倒に感じてしまうことは極力排除したかった。そういう意味でも声を入力するというのはとてもシンプルだと思い、声×AIの方向性に決まりました。

株式会社ディー・エヌ・エー デザイン本部 マーケティングデザイン部 部長 渡辺義久さん
株式会社ディー・エヌ・エー デザイン本部 マーケティングデザイン部 部長 渡辺義久さん

――fontgraphyでは、どういった役割分担で進められたのでしょうか。

佐藤 私は企画の全体統括がメインの役割でした。あとは細かい部分ですが、社内800人の声をデータとして集めて、それをAIに学習させる時の印象タグづけを行いました。たとえばAIがある声を聞いた時に、これは「かわいい」の指標が3、「かっこいい」が1、「若々しさ」が4というように定義づけをする必要があるのですが、それは人間が1つひとつAIに教えなければいけない。全部で8こ指標があり、それらを300個ほどあった素材に定義していきました。

渡辺 今回僕はプロデューサーの役割を担いました。モノタイプ社からフォントを提供いただいたり、九州大学の内田誠一教授にAIの観点で助言をいただいたり、ホムンクルスさんにデザインの制作をお願いしたり。社内外の関わるメンバーをまとめ、どんなゴールを目指すべきかを提示したり、プロジェクトを前へ進めるポジションだったと認識しています。

加茂 私が担当したのは、システムアーキテクトの部分がひとつ。あとは、私がエンジニアとして入社し、フロントエンドのバックボーンからデザイン本部のマネージャーを経て、サービスバックエンドとインフラ、そしてMLOps(AI周辺技術)とキャリアを進めてきたので、AIのエンジニアが集中して開発に取り組めるよう、両者の相互通訳のような役割もつとめました。

あとは今回、外部のベンダーさんのマネジメント、フロントのシステムとAIのバックエンドのインテグレーションなど、システム開発から実装、運用まで一通り行いました。

株式会社ディー・エヌ・エー AI本部AIシステム部 MLエンジニアリンググループ グループマネージャー 加茂雄亮さん
株式会社ディー・エヌ・エー AI本部AIシステム部 MLエンジニアリンググループ グループマネージャー 加茂雄亮さん

――フォントグラフィーのデザイン面で意識していたことはありますか?

加茂 fontgraphyが生成されている過程のビジュアルでは、下記のようにフォントが散らばっているような演出があります。これは「観測可能な宇宙」をイメージしているんです。

さきほど8個の印象タグの話題がありましたが、AIはこの8個の属性、AI的に言うと8次元あるものを、フォントとスタイルの2種類を掛け合わせることでグラフィックを生成しています。ですが人間は3次元でモノを捉えるので、8次元を認識することはできない。

ではそれを、どうすれば人間にわかりやすく、かつ、AIが自分にあったフォントを探しているということもビジュアルとして伝えられるかと考えて思い出したのが「観測可能な宇宙」のイメージだったんです。我々が住む宇宙も実際には3次元以上の次元を持つと言われていますが、人間はそれを知覚することができない。それでも人間が宇宙を3次元の表現の中で星を観測しているように、AIが自分に合ったグラフィックを見つけてきてくれる、というイメージですね。

佐藤 声を入れて、それに合わせたグラフィックがシンプルに出てくるだけでもいいのですが、よりよいUXにするためには、AIが声を判断して、そこから近しいものを探してきて、オリジナルのグラフィックを作る、というステップをユーザーに体験してもらうことが大切です。その部分は、デザインの制作を担当していただいたホムンクルスさんとも話し合いを重ねました。

加茂 最初は生成された画像とサイトのトーンもちぐはぐだったんですよね。デザインが少し素人っぽくなってしまったり、アーティスティックではなかったり。そこでサイト全体のビジュアルを刷新したり、エンジニア側も「いかにAIが選び取っている感」を出すことができるかは話し合いながら調整をしていきました。

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