軸は「中長期でブランドの役に立ち、その先のユーザーの生活を良くする」こと
――まずはご経歴からお聞かせください。
大学生のころは、人が何に興味があるのか、どういう情報にふれてどんな行動をとるのかといったことに関心がありました。そのためジャーナリズムや国際関係論などを勉強しながら、そのなかでマーケティングや広告領域でも仕事をする可能性があるのかもしれないと考えていましたが、大学時代から広告そのものにとても興味があったわけではありません。
もともと外資のマーケティングリサーチ会社でインターンをしており、そのまま入社する道もありました。しかし就活のときにいろいろな会社に会いに行った際、友人の紹介でビーコンコミュニケーションズに足を運びました。そこで掲げられていた「クリエイティビティには、人の行動を変える力がある」という標語にとても惹かれたんです。そのときまで広告代理店で働く選択肢はなかったのですが、それがきっかけで選考を受け、ご縁があって入社することになりました。
入社時には肩書が決まっており、私は「ストラテジスト」でした。担当していたのは、グローバルブランドが日本やアジア市場に参入する際、ターゲットやコミュニケーションの戦略をつくってクリエイティブチームとアウトプットに落とし込んだり、メディアチームとメディア戦略を考えたりといった業務です。P&Gさんや日本マクドナルドさん、マッチングアプリのTinderさんなど多岐にわたるグローバル企業さんとお仕事をさせてもらい、5年半ほど在籍しました。
そんなビーコンコミュニケーションズで働くことはとても楽しかった半面、広告コミュニケーションそのものに限界を感じ、ほかの領域に可能性があるのではないかと考えるようになっていました。広告となると短期的な売上アップや、ダウンロード数の増加などが目的になることが多い。それももちろん意味があることではあるのですが、自分が時間をかけて仕事をするのであれば、もう少し中長期的にブランドや企業の役に立ったり、その先にいるユーザーや社会のためになるようなことがしたい。そんな思いから、新規事業開発チームなど、いくつかのポジションについてお話を伺っていました。
そのなかで次のキャリアとして博報堂アイ・スタジオの新規事業開発チームを選んだ背景には、先輩が働いており情報が得やすかったなどもありますが、イベントでエンジニアの方とお話をしたときにとても興味が湧いたことが大きかったです。最後までアウトプットを作りきることができる方がたくさんいる環境に魅力を感じました。当時は「事業開発をする」という自身の興味に従って入社することを決めましたが、結果として手を動かしてモノをつくる「制作」にたくさん携わることができた。最初は知識不足でそこまで見えていなかったのですが、20代最後に制作の現場を経験できて本当に良かったと感じています。
――ストラテジーから制作の部分にも関わるようになり、考えかたの違いなどはありましたか?
ストラテジストのときは、ブランドの課題は何かを考え、それを変えるための戦略を考えるなど大きいシフトチェンジについて話をすることがほとんどでした。
一方、博報堂アイ・スタジオでは、プランナーとディレクターのふたつの肩書で2年弱働いていたのですが、入社してすぐに先輩方からもらったフィードバックでは「企画はわかったけれど、それってどういうことなの?」と聞かれることが多かった。「どうやって作るのか」「どんな仕組みでできているのか」「最終的にユーザーはどのような順番で何をしていくのか」。そういった「具体」の部分まで考えなければエンジニアの方は動くことができません。最初はそれがどういう意図なのかがわからなかったのですが、粒度を小さくし、きちんと動くものをつくることが制作サイドではとても大切なのだと気づきました。