世界観とは「舞台装置」 重視するのは「コンテクスト」
たちばな 青木さんは「世界観」というものをずっと考えていらしたのではないかと思い、今日はお話を伺うことを楽しみにしていました。よろしくお願いいたします。
青木 こちらこそよろしくお願いします。
たちばな 普段は「世界観」という言葉をどのように使ったり意識したりされていますか?
青木 私が初めて世界観を意識したのは、映画監督の押井守さんの発言がきっかけだったと思います。ラジオだったでしょうか、「SF映画で大切なのはプロダクトデザイン」といった趣旨の発言をされていたんです。おもしろい話でもキャラクターが持っている武器のデザインがかっこ悪ければ魅力は半減してしまうし、逆にプロダクトがカッコよければ話のつまらなさも多少はカバーできる。そんなお話だったと記憶しています。それ以降、世界観とは舞台でいうところの「舞台装置」のようなものだと考えるようになりました。
たとえば、映画『ブレードランナー』で使われている小道具や武器には、テクノロジーが進化した世界にある独特のカッコよさが感じられますよね。『ブレードランナー』の世界観を伝える記号がそこら中に詰め込まれている。
たちばな たしかに「北欧、暮らしの道具店」にも世界観がぎゅうぎゅうに詰まっていると感じます。「北欧、暮らしの道具店」の世界観というのは言語化できるものなのでしょうか。
青木 言語化は難しいかもしれないですね。それより「どんなコンテクストを受け継いでいるのか」を重視しているんですよ。
たちばな コンテクスト、ですか。
青木 僕らのお客さんは「POPEYE」や「BRUTUS」、「Olive」や「ku:nel」など、マガジンハウスの雑誌に影響を受けた方が多いんです。
このルーツを辿っていくと、1800年代にウィリアム・モリスが率いたアーツ・アンド・クラフツ運動に行き着くと思っています。それが1900年代の芸術運動「バウハウス」につながり、日本だと柳宗悦などが率いた民藝運動になる。その流れでマガジンハウスの媒体が「生活にある美」を表現したり、無印良品が生まれたりしています。私たちのお店や商品は、このコンテクストの上にある、ということを意識してきました。
たちばな なんとなくのイメージで商品をセレクトしているのではなく、そういった歴史的背景や文脈を大切にされているのですね。
青木 そう考えると、「身の丈に合っている」「カジュアルだけど自分らしい」「他人の評価より自分らしさを重視する」などお客さんが大切にしているものが見えてきます。そのためデコラティブなグッズや奇抜なデザインの商品は、自然と私たちの領域から外れていきます。そうやって積み重ねた結果の上に、世界観ができあがるのだと考えています。
たちばな とても納得できました。ちなみに、初回で対談したゲームデザイナーのイシイジロウさんは、世界観には「ワールドビュー」と「ワールドビルディング」のふたつがあるとおっしゃいました。ワールドビューは作者や主人公が見ている世界のありかたで、ワールドビルディングは「魔法が使える」など物語の設定だと。青木さんがおっしゃる「コンテクスト」はどちらに近い気がしますか?
青木 まさに「ワールドビュー」だと思います。「北欧、暮らしの道具店」の成り立ちとしては、妹の佐藤友子とスウェーデンを旅行した時に、北欧ビンテージ食器を買い付けたのが最初です。ビンテージ食器が素晴らしかったのはもちろんですが、私たちが惹かれたのは、そこでの暮らしかたや経済の仕組みなど、もっと幅広いもの。その商品の背景にある文化や価値観などだったわけです。この辺りがまさに「ワールドビュー」につながるところではないでしょうか。