さまざまな企業やサービス、ブランドが溢れる昨今、消費者に選んでもらうために、「どんな差異を感じてもらうか」という点は、多くの経営者や担当者を悩ませてきただろう。その問いに対するヒントを「ブランディング」と「デザイン」という切り口で示しているのが『西澤明洋の成功するブランディングデザイン: 本当に良いモノをより良いカタチに導く』(誠文堂新光社/デザインノート編集部 編」だ。
大手メーカーでインハウスデザイナーをつとめた西澤氏は、「中小企業においても社長と二人三脚でデザインを活用すれば、会社を元気にできるのでは」と考えるようになり、2006年にエイトブランディングデザインを立ち上げた。
西澤氏はブランディングの目的を、「他者との差異化」と表現する。経済が急激に成長していた時代、その大部分を占める要素は「ビジュアル」だったかもしれないが今はそれだけでは足りない。そのさらに根幹の「経営」で、他者との違いをつくらなければならないのだ。そしてそれを「伝言ゲーム」のように広げていくコミュニケーション設計が大切なのだと西澤氏は言う。だがSNSが普及した今、手っ取り早く「伝言ゲーム」をするために、目の前のバズや話題性に飛びつきたくなることもあるだろう。ただそれらは根本的に「ブランディングとは異なる」と西澤氏は警鐘を鳴らす
「(中略)ブームと言うのは、コミュニケーションの初速こそ速くて強いですが、外部環境の変化によって波があっという間に引いていくこともありますし、いつか必ず終わりが来ます。ブランディングが目指すべきゴールはこうした短期的な反応ではなく、企業が持続的に元気でいられる状況をつくっていくことだと考えています」(P7)
そんな信念をもとに、エイトブランディングデザインが携わってきた取り組みとして、西澤氏が起業前から20年以上にわたってサポートしてきた「nana’s green tea」、北海道を中心に展開するドラッグストアチェーン「サツドラ」、ハンドクリームで知られる「ユースキン」など20個の事例を紹介。また西澤氏が編み出したブランディングデザインのメソッドについても、本書では余すことなく解説されている。
そして注目すべきは、隈研吾氏、佐藤可士和氏それぞれとの対談だ。
クリエイションやデザイナーのありかたについて議論された隈氏とのセッションでは、「デザイナーの社会的役割」を西澤氏が尋ねたところ、次のような答えが返ってきていた。
「過去を振り返っても、世の中が変わる時というのは、実はデザインから変わっていっていることがすごく多いんですよ。言葉の世界は意外と後から付いてくるもので、時代の一番ナマな感じを伝えるのはデザイナーだと思っています。だから時代の変わり目に関して、デザイナーが勇気をもってやっているということがすごく大事。言葉として未完成でもいいから、何か発信することが大事だと思いますね」(隈氏/P31)
一方、佐藤可士和氏とは、デザインの拡張やこれからのブランディングデザインをテーマに対話がなされた。そのなかでブランディングデザインの今後に話が及んだ際、佐藤氏は自身の見解をこう明かした。
「(中略)僕はあらゆるものをコミュニケーションのデザインと捉えていて、ブランディングとはコミュニケーション全体をデザインすることだと考えています。最近は単一の企業ブランドだけではなく、複数のブランドが集まって地域ブランドになったり、地域や国を超えた活動やコミュニティが活発化している中で、ブランドの概念も広がっています。これからは広告やロゴ、プロダクト、空間、建築など特定の対象をデザインするだけではなく、より大きなコミュニケーションやイメージの早退をデザインしていくことが求められてくるのではないでしょうか」(佐藤氏/P81)
本書には、「ブランディング」や「デザイン」に従事する人であれば確実に押さえておきたい、根っこの考えかたが示されている。ブランディングに力を入れていきたいが、なにから取り組んだらよいかわからない。すでに着手しているものの、思うような成果が出ていない。ほかの企業との違いを明確に打ち出していきたい――。そんな悩みや思いを抱いている人は、本書にそのヒントを求めてみてはいかがだろうか。