徹底的に「リアルさ」にこだわる
たちばな この対談では世界観を軸にお話ししているのですが、日常において「世界観」という言葉を使いますか?
森 あまり使わないですね。ですがYouTubeの視聴者の方からは「世界観がある」と言ってもらうことも多いです。
たちばな 私もYouTubeチャンネルを観ていて同じ感想を持ちました。33万人以上のフォロワー数を抱えるチャンネルに成長されていますが、気に入ってもらえているのは、どのような部分だと考えていますか?
森 YouTuberとして人気になるために取り組んでいるのではなく、「日常のお客さんとのコミュニケーションの延長にある」という軸がブレてないことが、多くの方が観てくださっていることにつながっていると思います。
あとは「リアルさ」にこだわっている部分でしょうか。画像やテキストが中心のSNSだとある意味でだましがきくところもあると思いますが、YouTubeのような動画コンテンツだと嘘がつけない。ありのままが伝わってしまうと感じています。Instagramでもキラキラした写真だけではなく、リアルな一面を知ってもらうために、「今日は全然お魚がないです」といった写真もあえてアップするようにしているんです。
たちばな たしかに森さんのチャンネルは、ドキュメンタリーのような要素が多いですよね。「こんな大きいお魚が手に入ったからこれを捌いてみよう」など、企画も臨機応変に決めているのがわかります。また、豊根村のチョウザメプロジェクトを追いかける動画は、観ていて応援したくなりました。
森 産地の方々とお話ししているといろいろな話題が出てくるので、生産者の思いやストーリーを伝えたいと思うんです。
たちばな 現地に足を運び、お話を聞いている動画も多いですよね。
森 YouTubeだと現地に行って直接話を聞き、そのままの姿を動画で伝えることができる。費用がかかったり、タイムパフォーマンスが悪かったりしても、できるだけ現場に行こうと考えているのもそういった理由からです。
たちばな ちなみに、YouTubeチャンネルの運営にはどこまで関わっているのですか?
森 企画、構成、編集のディレクションなども私が行っています。
たちばな 大部分の作業に関わっていらっしゃるのですね。編集なども細かく修正の指示を出されているのですか?
森 はい、編集担当のスタッフさんにめちゃくちゃ長いLINEを送ります(笑)。
たちばな それはすごい(笑)。こだわりが強いのでしょうか。
森 それよりも「責任感が強い」のほうが近いかもしれないです。私が「こうしたい」と思って行動することはそれほど多くないように思います。それよりも、日々接していることでお客さんの反応が自然に浮かびますし、取材させていただいた方の思いや地域課題の経緯などをどうやったらわかりやすく伝えられるかなどを考えると、私にできることは可能な限り全力で取り組みたいと思うんです。
たちばな YouTubeだけではなく仕事全般において、スタッフとコミュニケーションをとるときに気をつけていることはありますか?
森 理由や意味にこだわること、でしょうか。お願いしたい行動の理由までしっかり伝えたり、「ルールだから」で済ませず必要なワケを言葉にしたり、話し合ったりするようにしています。SNSも「ツール」と捉えると少し距離を感じますが、「接客と同じだと考えれば伝えかたが変わるよね」とか……。そういった部分にはとくにこだわりますね。
たちばな 以前リアル脱出ゲームなどを作られているSCRAPのきだ さおりさんと対談をした際、脱出ゲームの細部まで指示をだし世界観が崩れないようにしている、といったお話を聞きました。脱出ゲームは、実際と同じような形でテストプレイを繰り返し、お客さんの反応を見て、細かい部分を修正していくそうなのですが、日々のお客さんとのやりとりによって支えられている森さんの活動にも通じるものがある気がします。