デザインは「社会」と「個人」の双方から考えよ――貝印のCMO鈴木さんが語るブランド論

デザインは「社会」と「個人」の双方から考えよ――貝印のCMO鈴木さんが語るブランド論
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2025/01/31 08:00

 刃物を中心に扱う老舗企業の貝印で、13年ぶりの新ブランドとなった「AUGER」や環境性能の高い「紙カミソリ」など、新たな取り組みがどんどんと生まれている。その立役者が、CMO兼マーケティング副本部長として、ブランドやデザインを中心に幅広くマネジメントしている鈴木曜さんだ。今回は鈴木さんに、貝印の取り組みで意識しているポイントや、これからのデザイン、ブランドに求められる要素などについて話を聞いた。

ブランドやデザインから「職人組織」まで 幅広い領域を統括するCMO

――まずはこれまでの鈴木さんのキャリアについてお聞かせください。

現在は貝印のCMOとグレートワークスのCCO(Chief Creative Officer)を務めているのですが、キャリアのスタートは自動車メーカーのSUBARU(スバル)です。当時のスバルはモータースポーツ全盛とも言える時代で、周辺のプロモーションに従事しつつ、後半はデジタルマーケティングも担当していました。

そこから、もっとクリエイティブ関連の仕事に携わりたいと考えて転職したのが、スウェーデン発のクリエイティブファームであるグレートワークスです。その当時は、H&Mを中心に、スウェーデンから生まれたブランドの勢いがあったタイミング。そんななかでクリエイティブディレクターとして多くのことを学べたのは良い経験でした。

グレートワークスでは入社してから2年で日本法人のCEOになったのですが、「クリエイティブの仕事がしたい」という思いがあったことで、「あとこれだけ費用を投資できればもっと良いものが作れるのに」と感じながらも、月末のキャッシュを考えると無茶できない、といった二律背反に悩むことも多かったですね。ただ、中国法人の役員も経験するなど、欧州とアジアの双方で実践的な経験を積めたことは、今にも活きています。

もともとはクライアントだった貝印に入社したのは2017年のことです。当時副社長だった、遠藤浩彰さん(現社長)から「もっと貝印ブランドを強くしていきたい」と声を掛けてもらい、入社を決めました。

――そこから、現在はCMOとして貝印のさまざまな組織を管轄されているのですね。

そうですね。入社してからはデザイン部長や広報宣伝部長を経験しながら「ブランド企画部」という新たな部署を立ち上げてブランドマネジメントの底上げも行いました。数多くの商品を手掛けている半面、「商品ブランドをどのように考え育成するか」という観点が未成熟だったため、体系立ててブランドをマネジメントできる仕組みを強化していきました。

CMOを拝命したのは2~3年前で、同時にマーケティング本部の副本部長にも就任しています。とはいえ本部長は社長のため、実質的には私がマーケティングの舵取りをしているような形です。

貝印株式会社 上席執行役員CMO/グレートワークス株式会社 取締役CCO 鈴木曜さん
貝印株式会社 上席執行役員CMO/グレートワークス株式会社 取締役CCO 鈴木曜さん

現在の仕事を整理すると、まず管轄しているのが市場調査などを行うマーケティング部です。ほかには、ブランド企画部と商品企画部を統合させ、ブランディングと商品開発を一気通貫で行う部署のマネジメントもしています。SNSマーケティングや広告戦略を考える広報宣伝部や、プロダクトデザインやパッケージデザインを担うデザイン部も統括していますし、かなり広範囲にわたっていますね。

――「ブランド部門と商品開発部門を統合した」というのは特徴的ではないかと感じました。

そうかもしれません。ブランドを考えるうえでプロダクトは非常に重要な役割を担うと考えており、たとえばプロダクト不在でコミュニケーションやグラフィックなど実物がない取り組みをしても、なかなかブランドって育たないんですよ。顧客体験を考える上ではブランドとプロダクトを一緒に考える必要があると考え、一体化しました。

そのほか少し珍しいところでは、「マイスター推進部」という「研ぎ」に関する職人が集まる部署もマーケティング本部に属しています。昨今はSDGs的なトレンドもあり「良いものを長く使う」機運が高まっているなかで、上手くビジネス化できないかと取り組んでいるところです。