私たちは、毎日の生活の中で、文字と一緒に暮らしています。たとえば電車に乗るときに、文字が存在しなかったら、駅名標やサインシステムを見ても、目的地にたどり着くことが難しくなるでしょう。日頃はあまり意識していない文字は、当たり前に存在していますが、必要不可欠な存在なのです。文字は、どのように誕生し、現在に至るまでどのような変遷があったのか。まずは振り返ってみましょう。
文字の誕生
地球の誕生は46億年前、そして人類の誕生は300万年前と言われています。では、文字が誕生したのは、いつだったのかというと、約5,000年前だと言われています。人類が誕生した300万年前からすれば、文字の誕生は、つい最近のことなのです。
文字は、今から約5,000年前に、メソポタミアとエジプトで誕生し、その後少し遅れて中国で誕生しました。それにより、記録を残したり、意思を伝達することが格段にしやすくなったのです。
文字の誕生により、王朝の歴史を正確に後世に伝えることができるようになりました。また、宗教や農業、医学、法律、教育、天文学などの発展に、文字が果たす役割が大きかったと思われます。当時、音声を記憶させるものは存在しなかったですし、ラスコー壁画にみられるような絵画では、正確な情報を伝達することはできませんでした。文字が誕生した当時、紙は発明されておらず、粘土板・石・動物の骨(亀の甲羅など)・木・樹皮などに文字を刻んでいました。
約5,000年前に起きた文字の発明の何がすごいか。それは、「文字という記号で、情報が構造化された」ことではないでしょうか。その証拠に、エジプトで誕生したヒエログリフ(神聖文字)は現在ではユニコード化され、「U+13000~U+1342F」のブロックに収録されています。
情報を正確に伝えることができるようになると同時に、多くの人に情報伝達ができるようになりました。碑文(石碑に彫りつけた文章)を複数作成し各地に設置することで、多くの人に情報を伝えることができたのです。
もし文字が誕生していなければ、ネット検索はもとより、読書さえもできなくなっていました。今の私たちの生活があるのは、文字誕生のおかげと言って良いかもしれません。文字の誕生は人類最大の発明のひとつだと思っています。
活版印刷技術の発明で、書籍が量産可能に
紙は、紀元前2世紀頃に中国で発明されたと言われています。そして、8世紀頃には東アジアで「木版印刷」が行われていました。版木(はんぎ)を利用した凸版印刷であり、広い意味での印刷技術のひとつです。活字で刷版を作る「活字版」と対比して、「整版」と呼ぶ場合もあります。
文字数の多い東アジアの言語圏においては、木版印刷が学術や文化の繁栄に重要な役割を果たします。江戸時代の浮世絵は、木版なくして語ることができないのです。
そして15世紀中頃、ヨーロッパでヨハネス・グーテンベルクが活版印刷技術を発明したことにより、鋳造した金属活字で組版して、書物や冊子、案内状などを本格的に量産することが可能になったのです。これがルネサンスの三大発明のひとつ、活版印刷術です。
15世紀に金属活字により印刷されたものを、ラテン語でゆりかごの意味をもつ「インキュナブラ(incunabula)」と呼んでいます。活版印刷技術が生まれた頃ですので、初期の印刷物と言えるでしょう。1455年ごろ、グーテンベルクにより「グーテンベルク聖書」が完成し、そのあと半世紀の間に、ヨーロッパの各都市へ活版印刷術が伝わったと言われています。