同じ穴を掘らないために、PDCAにもAIを組み込んだソリューション
――まずは自己紹介からお願いします。
阿部(オプト) もともとデザイナーだったのですが、2023年ごろにアドAI統括室に異動し、それからはプロダクトマネージャー(PdM)としてAIとクリエイティブの分野を担当しています。当時はAIに仕事がとられてしまうのではないかといった論調もありましたが、今まで携わってきたデザインがそうならないよう、AIを活用してクリエイティブを良くしていく活動を先導していこうとの思いから現在の部署に移りました。

高田(Re Data Science) 私は2021年にデータサイエンス起点の事業開発支援や、データ解析を行うRe Data Scieceという会社を創業しました。創業前は、日本銀行で統計学を活用した分析業務に携わったのち、リクルートで、ビッグデータの解析や機械学習・AI活用に関する業務に従事していました。
――今年2月に2社で共同開発を行った、3つのAIを活用した広告クリエイティブ制作ソリューション「Murmuration: Sequential Generator(以下、マーマレーション)」は、どのような仕組みなのでしょうか。

高田 マーマレーションは「クリエイティブの大量生成」「事前予測による順位づけ」「実績に応じたリプラン」という3つのAIを軸にしたサービスです。これは、今までのクリエイティブ制作業務・広告運用のフローをAIによって変革したものであると自負しており、「制作・運用における新しい型の提案」と言い換えても良いかもしれません。
まず「クリエイティブの大量生成」の部分では、生成AIを活用して迅速かつ大量に制作。もっとも、高度なブランドイメージの理解や、品質の確認などについては、これまでどおり、人間がしっかりと介在します。ここで多くのクリエイティブを制作するわけですが、入稿できる枚数は限られています。大量に制作した候補に対して、事前にAIによる効果予測を行い、順位をつけることで、クリエイティブの「量」を「効果」に還元することが目的です。

配信後は「実績に応じたリプラン」を行います。たとえば、1周目にすでに十分効果の良いクリエイティブを創出できていた場合、同じ広告出稿の繰り返しでユーザーが見飽きてしまわないよう、定期的に変化をつけていきます。一方、1周目で成果をあげるクリエイティブが生み出せなかった場合、2周目は制作の方向性自体を疑う必要があります。
そこで、AI関連技術によってクリエイティブを適切なベクトル表現に置き換え、その情報によって2周目の生成過程を制御します。
クリエイティブを大量に制作する点は1周目と2周目で変わりませんが、2周目では「特定の範囲」のなかだけでたくさん作られるよう制限をかける。それにより、すでに良い効果が得られている場合はそれを継続させたり、効果が悪かった場合は効率的にリカバーしたりするというのが、基本的な考えかたです。
――「クリエイティブの大量生成」の部分では生成AIが活用されているとのことですが、著作権などの面で懸念はないのでしょうか。
高田 2022年ごろ、Open AI 「DALL-E 2」、Google 「Imagen」、「Midjourney」、Stability AI 「Stable Diffusion」といった画像生成AIが相次いでリリース。当時はたしかに著作権面で課題が多く広告業界で活用するのは難しい状況でした。しかし、2023年9月に著作権の問題を完全にクリアしたAdobe Fireflyが登場したことにより、広告制作でも生成AIを活用することができるようになった。広告制作の歴史を変えたのは、アドビ社だと私は考えています。
