定量的なクリエイティブ制作を可能にしたマーマレーション
――なぜ開発時に「実績に応じたリプラン」の部分にこだわったのですか?

高田 「クリエイティブを大量生成」し、その「量」を「事前予測による順位付け」で「効果」に変換するという考えかたは、マーマレーションというサービスを考える以前よりありました。ただ、このような大量生成・事前予測による選抜を伴う制作プロセスは、万能ではありません。
たとえば、制作から配信までのプロセスを1周終えて、効果の良いクリエイティブを創出できなかった場合、2周目は制作の方向性自体を変え、1周目とは異なる軸のデザインを採用する必要があります。しかし、大量生成を行う場合、2周目で制作した候補の一部が、すでに効果が悪いと判明しており、かつ1周目で採用されたデザインと似てしまうケースも珍しくないほか、事前予測による選抜を行う際に、それらを採用してしまう傾向もあります。この場合、2周目は、1周目で採用されたデザインと似ていない候補のみを制作する必要があったと言えるでしょう。
つまり、「クリエイティブの大量生成」と「事前予測による順位づけ」のふたつのみでは、どうしても同じミスを繰り返してしまう可能性がある。この問題をどうにか解決できないかと考えた結果生まれたのが、このマーマレーションです。
――実際の現場でも、課題は感じていましたか?また実感している変化があれば教えてください。
阿部 制作の現場では「成果が良くなかったことはわかるけれど、次に何をやったら良いかがわからない」という課題がありました。つまり、何が良くないのかを定量的に説明することができなかったのです。それがマーマレーションの仕組みによって、想定より成果が見込めなかった場合でも、前と同じ状態ではないことは明確に示すことができる。これはとても大きな進歩です。
また、今までは基準が特に定められていないなか、人が見て、結果が出ているクリエイティブと似ているかそうでないかをなんとなく判断していました。「自由に作って」という指示は、ときに現場を混乱させる場合もある。マーマレーションによって、基準や軸が明確になり、制作における混乱は減ったのではないかと思います。

くわえて、ディレクターからデザイナーへの情報伝達ミスが起こりづらいというメリットも生まれたと思います。たとえばディレクターがデザイナーに「結果がでなかったから少しクリエイティブを変えてほしい」と依頼をしても、制作サイドとしては何の要素をどれくらい変えたら良いかの判断は難しいものです。ですがマーマレーションでは、「実績に応じたリプラン」のフェーズで、基準となるクリエイティブとどれだけ似ているのかを数値で示す「類似度」がでる。そういった定量的なデータをもとに制作ができるのは、ディレクターも制作側も進めやすいです。

――マーマレーションができる前後で、デザイナーに求められるスキルは変わりましたか?
阿部 もちろん、マーマレーション特有の業務フローに慣れる必要はありますがいっそうデザイナーには「制御があるなかで定性的な良さを出し続けること」が求められると思います。ただ一方、本質は変わらないとも思っています。実際に生活者がそのクリエイティブに触れたときに、それが魅力的か、見た人にメッセージが届いているのか――。そういった部分では、やはりデザイナーの感性が不可欠。それはまだまだ人間の得意領域として残り続けるはずです。