変化する「IP」「ファン文化」「コミュニティ」との向き合いかた
諸石(ヒューリズム) ファンコミュニティプラットフォーム「Gaudiy Fanlink(以下、Fanlink)」の開発・運営を行っていますが、そのデザインをする際、どのようにファン文化やコミュニティと向き合っているのかを教えてください。
寅次郎(Gaudiy) 以前はIP数が少なかったため、ひとつのIPに対して深く理解するためのリサーチを頻繁に行ってました。ユーザーがどういったメンタルモデルや文化圏を持っているのかを知るためのデスクトップリサーチやユーザーインタビューを頻繁に行いファンやIPの解像度を高めることに力を入れていました。ただ現在は、もう少し抽象化したレイヤーで捉えています。初期と比べて、ユーザーとの距離感が変わってきていますね。
ひとくちにIPといっても、マンガ、ゲーム、アイドル、スポーツなどジャンルも多様で、IP数も増えてきたため、全員がすべてのIPを深く理解することがとても難しくなってきています。そのためアサインによって、より広く使われる汎用的な機能設計が必要で、「全体最適を求められる役割」と「特定のIPに向けて提供する個別最適化が求められる役割」のふたつにロールを分けています。
前者の「プラットフォームとしての体験や機能をデザインする」デザイナーは、各IPについているコミュニティマネージャーを「クライアントとユーザーの代弁者」に見立てています。そのメンバーは、コミュニティの企画・運営やCSの対応を行っていたりとユーザーやクライアントの課題感、要望に対する解像度がいちばん高いため、その人を一次ユーザーとし、機能開発時にヒアリングすることは多いですね。そこからさらに理解を高めたい場合に、インタビューやアンケートを実施するような形です。

またプロダクトの考えかたにおいても、以前と違いがあります。昔はコミュニティがどういった成り立ちで成長していくかを前提にプロダクト開発を考えていましたが、現在は「IPがどういう状態であるか」「ビジネスの視点でどういった課題があるのか」を起点にすることも多い。「コミュニティとして盛り上げることがいちばん大切」といった思想ではなく、ここ1~2年は「事業としてしっかり成り立たせる」ことに、注力すべきポイントが変わってきたのだと思います。
Fanlinkはあくまで“黒子” カラーシステム設計の思想とその成果
諸石 デザイナーとしては、Fanlinkのカラーシステム設計に取り組んでいらっしゃいますよね。これはどのように作っていったんですか?
寅次郎 前提として、Fanlinkはあくまで黒子であり、そのなかに入る「IPのコンテンツ」や「ユーザーが生んだUGC」が主役だと考えています。つまり、Fanlinkは土台であるため、各IPの色を使えなくなるのは違和感があると思うんです。アーティストのライブを観に行って、ステージの装飾がスポンサーの色だったらがっかりしますよね。そのため、デフォルトのカラーが決まっていては、案件を獲得する点からも障壁になり得ると考えました。実際に僕らが着手したのも、導入にあたってクライアントから「世界観を守るためにダークモードに適用したスタイルでユーザーに届けたい」といった強い要望を受け、カラーもしっかり設計し直すべきだと考えたのが始まりでした。
最初に取り組んだのは、もともとあったベースのカラーをしっかりシステム化すること。この初期バージョンは、2~3ヵ月ほどで作りました。そこからおよそ1年をかけて徐々にアップデートしたのが現在のバージョンです。約12個ある色のなかから選択できる形にし、見せかたをカスタマイズするようにしています。

諸石 運用上の難しさもあると思うのですが、カラーシステムを構築したことでどんなインパクトがありましたか?
寅次郎 代表の石川がアカデミックな論文などを引用することが多いこともあり、インプットを怠らないという文化が会社に根付いているため、僕もカラーを調べるときに、国内外のブログやカラーの研究をしている人たちの論文を読み漁って、一定数のリファレンスを持って取り組みました。
カラーシステム構築による成果のひとつは、デザインプロセスのなかで色について都度考えなければならないことが削減されたこと。デザイナーの動きで言うと、セマンティックカラーなどのルールさえ覚えれば、そのコミュニティでどういった見た目になるのかを気にせずにデザインを作ることができるため、デザイン工数も大幅に減らすことができたのではないかと思います。
また設計は、基本的に僕と同期のフロントエンドエンジニアと一緒に行っているのですが、エンジニアとコード面での認識を一致させることができるようになったため、実装とデザイン上のコードの差分を圧縮できました。現在はAIが開発をサポートしてくれる状況にもなってきていますが「AIがアクセスできる情報であることへの投資」という意味でも、副次的な効果がでてきたように思います。