「車椅子に乗らない人も使いやすい」というコンセプトに至るまで
――Wheeliyは乗る人だけでなく、車椅子に乗らないまわりの人も使いやすくすることで、ユーザーの外出をサポートするというコンセプトです。そのコンセプトに至った背景を教えてください。
門田 前段の話として、チームの中に車椅子ユーザーはおらず、非常に馴染みのないプロダクトだったため、できるだけ本当のユーザーの声を聞くことを意識しました。そこで重要だったのが、清水が担当した「デザインリサーチ」です。
清水 リサーチでは、車椅子の現在の市場を徹底的に調べつつ、何十時間にわたる車椅子ユーザーの方々のインタビューも並行して行いました。できるだけいろいろな方のお話を聞きたかったので、車椅子ユーザー向けの雑誌の方にご紹介いただいたり、脊髄損傷者専門のジムであるJ-Workoutさんにお話を伺ったりもしました。
車椅子ユーザーと言ってもひとくくりにすることはできず、本当に多様な方がいらっしゃいますので、インタビュー内容をもとにグループに分けてストーリーを描き、ユーザージャーニーマップを作っていきました。
私たちが提供したいと考えたのは、「アクティブに外出したい方向け」の車椅子。そこで、車椅子を使わざるを得ない生活になった時点から、積極的に外に出かける段階に至るにはどういう流れがあるのか――。インタビュー内容から共通するキーワードやポイントを細かく探っていきました。それらを俯瞰して見えてきたのは、まわりの人からのサポートや勇気づけが重要だということ。逆に言えば、タクシーに乗車拒否されたり、車椅子のたたみかたがわかりづらいことが理由でサポートを頼みづらかったりといったことが、外出の妨げになっているのです。

門田 今でも忘れられないのが、車椅子ユーザーの方にインタビューした際、まさにここに来る途中でタクシーに乗車拒否されたと話されていたこと。そうした話を紐解いていくことで、たとえば、タクシー運転手さんも自分が触って壊してしまうリスクを考えてしまうのではないか、車椅子を使わない人にとってのバリアがあるのではないか、という発見につながっていきました。
清水 ユーザーの方々の日々の細かな出来事や思いに触れていったことで、車椅子に慣れていない人でもサポートしやすいというコンセプトが徐々に立ち上がってきました。
――コンセプトが決まったあとは、それをどのようにデザインに落とし込んでいったのですか?
門田 たとえば「スーツケースの持ち手に色がついていればハンドルだとすぐわかる」「パワーツールの握る部分だけ色がついている」というケースはよく遭遇しますよね。人々は頭の中にこのようなメンタルモデルと呼ばれる、物事に対する判断や行動の“基準”のようなものを無自覚に作りあげていますが、それを車椅子にも応用しました。車椅子に乗らない人でも直感的に操作がわかるような色づけをベースに、全体のデザインを仕上げていきました。

北 全体のデザインをチームに共有したあとは、試作を繰り返しながら細部を作り込んでいく作業に入っていきます。車椅子はタイヤやハンドル、ステップ、ブレーキと重要な機能がたくさんあるだけでなく軽量化も必要だったため、素材や機能の制約内で、可能な形状を探し、デザインをしていく必要がありました。
また各機能についても、既存のものよりも良い方法はないか検討を重ねました。たとえば、一般的な車椅子はハンドリムを使ってブレーキをかけるのですが、摩擦で手の皮が剥けてしまうんですね。車椅子ユーザーにとっては当たり前かもしれませんが、ユーザーではない私からすると、もっと違うブレーキ方法はないのかと思い、アームレストでブレーキをかけられるアイデアが生まれたりもしました。

1つひとつのパーツについても、ユーザーリサーチなどをもとに検討して試作品を作り、フィードバックをいただいて修正して、という工程を何度も繰り返し、ディテールも緻密に調整していきました。