“ユーザーでない人も使いやすいクルマイス”はいかに生まれたか quantumが語る「Wheeliy」開発秘話

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2025/06/27 11:00

ユーザーでない製品だからこそのこだわり 「一新」ではなく「同じデザインランゲージ」を

――自身がユーザーではないプロダクトに関わることは簡単ではなかったと思いますが、そこで意識していたこと、得られた気づきなどあれば教えてください。

清水 自身が使っている製品ではないからこそ、自分がユーザーになったと思えるくらい徹底的に取り組もうと、通常よりもかなり多くのインタビューを行いました。もちろん、ユーザーの話す内容が100%正解でないときもあります。日々使っているからこそ、こういうものだという固定概念もできていきますから。ただ疑問を感じることがあっても、インタビューはあくまでお話を聞くことに徹して、あとからインサイトとしてチームに共有するようにしていました。

インタビューでは、「ユーザーじゃない君たちにわかるのか」といった言葉をかけられることもありました。ですがそういった方たちのほうが、私たちの思いを理解していただけたら、腹を割って話してくれるようになるんですよね。やはり仕事においても人としての思いやりや共感する力が大切なのだと痛感しましたし、それがあってこそ、このデザインやディテールにつながったのだと思っています。

 私は車椅子に触れること自体がほとんど初めての状態だったので、まずはスタート地点に立つため、モルテンさんのベテランエンジニアの方にご教示いただきながら、いちから勉強しました。自分が使わないプロダクトだからこそ、車椅子そのものの機能や仕様、ユーザーの方々の日々の過ごしかたまでとことん学ばせてもらいました。そうやって理解が深まることで、これまでの車椅子の固定概念を崩す発想や提案もできるようになる。改めてそんな気づきを得ることもできました。

門田 車椅子をよく知らないからこそ「そもそも車椅子とはなにか」から考え、今までにない視点を出すこともできる。「素人だからこその強さ」のようなものもあると思っています。

また私が今回意識したのは、Wheeliyをブランドとして育てていくこと。1号機から2号機へアップデートする際、モルテンさんから一新したいというご意見をいただきましたが、ブランドとして長期的に認知されていくためには、同じデザインランゲージを持っておく必要があると考えました。黄色いカラーのアクセントとS字フレーム、3本スポーク。この3つがWheeliyをWheeliyたらしめる要素だと思っていたので、これを踏襲して開発をしたいとお話しました。今後もこのトレードマークを残しながら進化していくべきだと考えています。

――最後に今後挑戦したいこと、取り組んでみたいことをお聞かせください。

 私はプロダクトデザイナーですが、quantumでは上流から提案できるプロジェクトもたくさんあります。サービス設計の提案から、何を作るのかを一緒に考えてアウトプットし、生まれたものをさらにアップデートしていくといった形で、quantumだからこそ、ビジネス全般へ関わっていきたいです。

清水 人をハッピーにすることで、社会の形はだんだん変わっていくと思っていますが、「アイデア」だけで人を幸せにすることはできません。重要なのは、アイデアやデザインをいかに実装して提供するか。そのためにも、ビジネスにおけるトータルのプロセスを重視しながら、さまざまなプロジェクトに取り組んでいきたいと思っています。

門田 新規事業というのは基本的に、世の中にまだない新しいものを作る営みだと考えています。たとえばiPhoneはAppleが新規事業のプロダクトとして開発し、今では誰もが使うスマートフォンの機能やデザインの原型になりました。今後、新規事業開発に携わるなかで、次世代にとってのひとつの原型づくりに携われたら嬉しいですね。それができたら、幸せなデザイナー人生だと思います。