「デジタルフォント」で課題を解決 DONGURIはなぜフォント開発サービスを生み出したのか

「デジタルフォント」で課題を解決 DONGURIはなぜフォント開発サービスを生み出したのか
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2020/07/22 08:00

 タイポグラフィックデザイナー。ブランディング・デザインコンサルティングファーム 「DONGURI」に所属する今市達也さんは、そんな肩書を名乗っている。今やグラフィックデザインやウェブデザインのみならず、ビジネスのプロセスや組織の設計などさまざまな領域にわたって使われている“デザイン”という言葉だが、同社ではこれを「顧客の課題を解決すること」として定義している。いったい、「文字のデザイン」を通じて、どのように課題を解決することができるのだろうか。そして、文字は、いったいどのような可能性を秘めているのだろうか。

フォントで企業の“声色”をつくる

 2019年11月にメルカリが欧文フォント「Mercari Sans」をローンチしたことは、タイポグラフィに限らず、デザインの世界において大きな話題となった。Monotypeのタイプディレクターである小林章氏をはじめ、Takram、monopo、whateverなどが参加してつくられたこのフォントは、どこか人間の体温を感じさせるようなものに仕上がり、多くのユーザーに対して「メルカリ」というブランドアイデンティティを伝えている。

 Googleの「Robot」、Appleの「San Francisco」、あるいはNetflix SansやYoutube Sansなど、近年オリジナルのデジタルフォントを開発し、自社のウェブサイトやアプリで使用する企業・ブランドが増えている。中国のアリババでも2019年4月29日の設立20周年を記念して、独自フォントを無料で提供。「阿里巴巴普恵体」と名付けられたこのフォントは、中国語、英語だけでなく172言語をカバーしており、ひらがな、カタカナにも対応している。 

 これまで、コーポレートアイデンティティといえば、シンボルマークやコーポレートカラー、ロゴタイプによって伝えることが一般的だった。しかし、そのような誰もが一見してわかる部分のみならず、デジタルフォントという細部に至るまでオリジナルなデザインを施すことで、ユーザーに対してブランドの世界観を届けているのだ。

 今市さんは、デジタルフォントの効果を次のように語る。

「本を読むときって、頭の中に声が響いてくる感じがしませんか?僕自身、頭の中にナレーターがいて、文字を朗読してもらうような感覚があります。文字1つひとつの違いはデザイナーでもわかりづらい部分がありますが、フォントを変えて文字を組むと、まるでナレーターの声色が変わってしまったように、その印象はガラリと変わるんです。

たとえば、サントリーさんのロゴマークを思い浮かべてください。このロゴタイプは、水の流れのようなフォルムをしていますよね。そして、この文字のやさしい印象を受けて、これを目にする人の脳裏には、やさしい声のナレーターの存在が浮かびあがってくるのではないでしょうか。

ロゴタイプの構成要素は文字です。文字は人間の手で書かれたものなので、シンボルマークのような図形的イメージよりも、読み手にブランドの人間性や人柄を伝達することに長けている一面があります。DONGURIでは、そんなロゴタイプやデジタルフォントが持つ機能を、コーポレート・アイデンティティに対応させ、『ボイスアイデンティティ』という言葉によって定義しています」

 フォントを通じて、そんな「頭の中にいるナレーター」を作りあげること。それが今市さんが「タイポグラフィックデザイナー」として果たしている役割だ。DONGURIでは、2020年5月、今市さんを中心とし、コーポレートフォントのオーダーメイドサービス「katakata branding」を開始。フォントによって企業の声色をつくり、その個性をデザインする。これをDONGURIでは「ボイスアイデンティティ」と呼んでいる。

「今、自分が専門としている文字の力で、もっと世の中の役に立つことができないか、と考えて『katakata branding』を構想しはじめたのがおよそ1年前。ネーミングは、タイピングした時のカタカタという擬音をモチーフにしています。

DONGURIの強みであるコーポレートブランディングの一環として、ウェブサイト制作やコピー開発、ロゴ開発などとともに、デジタルフォント開発を内包する。それによって、企業やブランドが持っている特徴や世界観を、ユーザーに対してより効果的に訴求することが可能になるんです」

 katakata brandingでは、デジタルフォント制作のためにワークショップを実施する。経営層を中心としたトップダウン型ではなく、さまざまな社員を対象としたボトムアップ型でのワークショップを通じて企業のアイデンティティを抽出。それをオリジナルフォントに反映させていくという。

「ワークショップでは、企業・ブランドがどのような声色を持っているのか、どういう人物像を持っているのかを話し合ってもらいます。声の高さはどうか。どんな体型をしているのか。スーツを着ているのか、カジュアルな装いなのか――。そのようなイメージを固めていきながら、開発するフォントに必要な印象を一緒に考えてもらうんです」

DONGURIのコーポレートフォント。(クリックすると拡大します)
DONGURIのコーポレートフォント。(クリックすると拡大します)

 しかし、アルファベットと記号で構成された欧米の言語とは異なり、日本語では何万という種類の漢字を用意する必要がある。1社で何万文字ものデジタルフォントをつくるのは、至難の業ではないだろうか。

「日本語の文章の6割は、ひらがな・カタカナによって作られています。漢字を含めると膨大な量になりますが、『かなフォント』と呼ばれるひらがな・カタカナを開発するだけでもその印象は大きく変わり、コーポレートアイデンティティを提示することが可能です」

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